2017年1月2日月曜日

爺ブログのレトロスペクティヴ2016

2016年は死を思って過ごした1年だった

れはミッシェル・デルペッシュとデヴィッド・ボウイーの死で始まった年でした。偉大な順というわけではなく、私の記憶に深く刻まれた人たちということで言えば、モーリス・ホワイト(アース・ウィンド&ファイア)、プリンス、ジョージ・マーティン(ビートルズ)、パパ・ウェンバ、ユベール・ムーニエ(aka クリート・ボリス、ラフェール・ルイス・トリオ)、レオナード・コーエン、ピエール・バルーなどが他界した年でした。そういう著名人たちの死ばかりでなく、戦場でもないのに「戦争」で死んでしまった人たち、7月の革命記念日の花火見物に来たニースの人たち、12月のクリスマス市の買い物に来たベルリンの人たち...。おととし、バタクランにロックを楽しみに来た人たちと同じです。この「戦争」は私たちの身近に居座ってしまって動きません。パリはかつての顔を取り戻すはずだ、私たちが恐れることなく外に出れば。運動は外にあり、街頭は私たちのものだ ー そう思わせてくれたレピュブリック広場「ラ・ニュイ・ドブー」の数ヶ月も2016年の出来事でした。もう一度外に出ましょう、機会があれば。みんな出たがっているはずです。恐れることなく。
 
さて、2016年の爺ブログのレトロスペクティヴです。この1年間に42の記事がアップされました。現在(2016年1月2日)の時点で、その42の記事のビュー数が多い順からのトップ10です。当然11月12月にアップされた記事は不利になりますが、知ったことではありません。爺ブログの範囲を超えて、私にとって最も印象的だった音楽アルバムはクリストフ『カオスの廃墟(Les Vestiges du Chaos)』、映画はグザヴィエ・ドーラン監督『ちょっとした世界の終わり(Juste la fin du monde)』 、小説は圧倒的にガエル・ファイユ『小さな国(Petit Pays)』でした。レイラ・スリマニの『やさしい歌(Chanson Douce)』は次点です。

1. 『何をそんなにありがたがルノー(2016年4月24日掲載)
 おそらく2016年、フランスで最も売れたアルバムでしょう。私はそれまで大好きな曲「ミストラル・ガニャン」を例外とすれば、積極的にこの歌手を紹介してきたことはありませんでした。しかしこの2009年以来復活したルノーに関しては、その不死鳥ストーリーをラティーナにもオヴニーにも書きました。長年のファンではないにしても、フランスに長くいると、どうしてもこの反骨シンガーソングライターを認めざるをえない、というポジションでしょうか。この記事でも書いたように、私はこのアルバムはそれ以後はほとんど聞いていません。ゴメンなさい。

2. 『ニュー・ファミリーとは何であったか(2016年4月26日掲載)
マッカートニーと同じサウスポーのベーシスト、 カロジェロが2014年に発表した6枚目のソロアルバム『花火(Les feux d'artifice)』の中の1曲「新しい世界(Le monde moderne)についての記事。おそらく当時(2016年4月)に発表されたアニメーションのヴィデオ・クリップに心動かされての投稿だったのでしょう。半世紀前に離婚が簡単になった世界は、あまり成熟していないし、「新しい世界」は進歩ではないけれど、子供たちは傷つきながらもその世界で生きて行くのです。考えさせられる歌でした。しかしこの記事が2位の座にあるというのは大変な意外です。

3.『フェルナン、フィルマン、フランシス、セバスチアン、そしてポーレット(2016年4月15日掲載)
 標題の出典は、2016年12月30日に82歳で亡くなったピエール・バルーの詞「自転車乗り」(曲フランシス・レイ、歌イヴ・モンタン 1968年)からの引用でした。2016年に私が一番応援してしまった新人女性シンガー・ソングライター、クリオは、応援が功を奏して9月にはディスク・ユニオン(DIW)から日本盤も出ました。すごく惚れてたんですね。爺ブログには同じアルバムのことを4つの記事で書いてますし、そのうち3つの記事がレトロスペクティヴ10選入りです。中でもこの「軽業師たち(Des Equilibristes)」が最高の曲と思いますよ。

4. 『ニッサ・ラ・ベッラ、ニースうるわし(2016年7月17日掲載)
 ニースは私にはパリ、ブーローニュに続いて思い入れのある町です。あの事件は、6月10日から7月10日までフランスで開かれたサッカー欧州選手権 EURO 2016の熱狂の直後に起こりました。相次ぐテロのせいで、開催さえ危ぶまれていたその大会の大成功の直後に。7月14日、お祭り気分(当たり前だ、革命記念日だもの)のニース「イギリス人の遊歩道」にごった返す花火見物人たちの中に19トントレーラー車は突っ込んでいった。その3日後に書いた私の悲しみと昂ぶりは、多くの人たちにリツイートされました。

5. 『明日に向かってガブれ!(2016年5月2日掲載)
本業の上での話ですが、私がどんなに褒めちぎって推薦しても、日本からもフランスからも全く無視される作品は多々あります。ノルマンディーの3人組ガブレは、「これ傑作ですよ」という調子で随分と日本にプロモ盤を送ったのですが、一社として反応するものはありませんでした。雑誌用にインタヴューまで用意していましたが。この辺の感覚のズレがここ数年ひどくなっている気がします。そんなガブレの記事が3000ビュー近い数字で、この5位のポジションです。一体誰が見に来ていたのでしょう?日本にいる人たちじゃないのかもしれません(この種の統計は "blogger.com"ではわかりません。)

6. 『ルネ王のルネッサンス(2016年5月18日掲載)
私はジャズのことなどめったに書いたことなどありません。伝説のピアニスト、ルネ・ユルトルゲのバイオグラフィーを、ダイアローグ形式で女流作家アニェス・ドサルトが書き上げたものです。ポーランド移民の子がピアニストとして若くして栄光をつかみ、やがてドラッグで転落していき、40代半ばにやっとクリーンになって再生する、という大まかな劇的人生ですが、それだけではない。50年代のパリが世界一のジャズの都で、スタン・ゲッツ、マイルス・デイヴィス、チェット・ベイカー、アート・ブレイキーらとルネ・ユルトルゲがどのように生きていたのかが証言されている、内側からのジャズ現代史としても読める貴重な一冊です。

7.『坂の上のマシュマロ(2016年4月11日掲載)
クリオのファーストアルバムからの歌を紹介した4つの記事の中の2つ目。「シャマロウズ・ソング」は北ブルターニュ海岸の城壁の町サン・マロでの恋の終わりの歌ですが、洪水になりそうな大粒の涙を流すのは男。アルバムの中には4曲ほど男に対しての(時には意地悪な)風刺眼を利かせた歌があります。クライ・ミー・ア・リヴァーと泣いている男を、どうしようもないわねえ、と見ている女。大学でエリック・ロメールを修士論文にしたというクリオの想像力では、サン・マロも舞台になっているロメールの『夏物語』(
1996年)に出てくるメルヴィル・プーポーのような少年がこの歌のイメージの源かもしれません。(と記事にも書いている)

8. 『四月になれば彼女は(2016年4月6日掲載)
2001年のヴールズィの歌をなぜあの時期に記事にしたかというと、その頃にインタヴューしたクリオのせいだったのでした。口数が少なく、質問にちゃんと答えてくれない、シャイなのか小難しいのかわからないけれど、私の目の前で才気と魅力はあふれ出ていたクリオは4月生まれだと知ったのでした。"Fille d'avril, fille difficile"4月の娘は難しい娘。ヴールズィのこの美しい歌は、クリオも大好きだと言ってました。ヴールズィ/スーションの曲は傑作も駄作もあるけれど、これは最良の一曲でしょう。

9. 『A la faveur de l'Automne (アキに加担して) (2016年6月21日掲載)
ケベック在住の日系(フランス語)作家アキ・シマザキは、残念ながら日本でほとんど知られていません。私は最初にこの『ホオズキ』を読んで、その夏までにフランスで刊行されている全作品12冊を全部読みました。平易でわれわれ日本人にはとても親しい文学空間があります(日本が舞台ですから)。日本の戦争、原爆、家父長制度、在日コリアン、商社、同性愛など多岐にわたるテーマをシマザキは分かりやすい物語にしてしまいます。日本の明暗を仏語圏人にさらけ出してしまうという大変な仕事を一人でやっているのです。尊敬します。

10. 『一方通行逆進、おお、すまん、ではすまない(2016年6月30日)
 どうして2016年はクリオにページビュー数が集中したのでしょうか。「オースマン通りを逆向きに」はクリオのファーストアルバムの最初の曲。年末になればきらびやかな電飾で覆われる百貨店街オースマン通りを舞台に、女が伸るか反るかの賭けで男に愛を打ち明けようとする短編映画のような歌。この若い女性シンガーソングライターの魅力は、こういう目の前に見えそうな映画的情景で、これを理解してもらうにはいかに歌詞をうまく日本語化するかという私の責任になるのですね。下手と言われようが、2017年も続けます。そして2016年はクリオに出会えて本当に良かったと、このレトロスペクティヴを解説して思いました。


2 件のコメント:

UBUPERE さんのコメント...

こんにちは。UBU PEREです。Renaudの記事が第1位だったなんて...
とても驚きました。日本ではほとんど知られていない歌手だと思っていたのに...

Pere Castor さんのコメント...

Ubu Pèreさん、コメントありがとうございます。
今年もよろしくお願いします。当ブログの「統計」はかなりメチャクチャになっていて、多分人間ではなくロボットのヴィジターが増えてます。ヴィジターの国籍(アクセス場所)で言うと、フランス、日本、アメリカ(少数)、豪州(少数)などは私の地盤や交友関係で理解はできるのですが、ロシア、ウクライナ、アラブ首長国連邦などが3ケタ数字でページビュー数があったりすると、これは人間ではないと思いますよ。今のところ「攻撃」や「悪用」はされていませんが、私のブログなどどうにも利用などできないと思います。
レトロスペクティヴは純粋に「統計」に従いました。4-5-6月の記事に集中しているのも、ちょっと腑に落ちない現象です。しかし、これしか方法がないので。
来年(2017年レトロスペクティヴ)はあまりに「統計」がおかしければ、自選ベストに変えようと思っています。