2015年7月24日金曜日

レ・ジノサンのお昼だよ

Les Innocents "Mandarine"
レ・ジノサン『マンダリン』

 16年ぶりのアルバムです。ジペ(JP Nataf)とジャン=クリ(Jean-Christophe Urbain)の二人になってしまいましたが、歌つくってるのはこの二人ですから、これでレ・ジノサン印を標榜したって何の文句もありません。
 レ・ジノサンは1982年にジペ・ナタフを中心に結成されたパリのバンドで(ジャン=クリは1988年に加入)、1999年まで4枚のアルバムを発表して2000年に解散しました。90年代、ブリット・ポップがもてはやされていた頃、当時はフランスの気鋭の音楽誌(1989年創刊。現在は総合誌)だったレ・ザンロキュプティーブル誌はレ・ジノサンを「海峡のこちら側の最良のポップ」と評したのでした。確かに私もアルバム全部持っていても、どちらかと言うとCDで聴くよりはFMで聴いたほうがありがたい、そういうFMが英国ものと並べてレ・ジノサンをオン・エアしてもポップさにおいて全然ひけをとらない、しかもフランス語ハンディキャップなど全然感じさせない、そういうバンドだと思って聴いてました。「サン・シルヴェストル」(1988)、「ロートル・フィニステール」(1992)、「コロール」(1996)... みんなFMで大ヒットして当たり前のクオリティーでしたから。
 ソロアルバムを2枚出したジペ・ナタフがジャン=クリと共同作業を再開したのは2013年のこと。二人とも今年で55歳。たぶんこの世代の人々(90年代に若かった人たち)が待望していたカムバックでしょう。もうFMで聴くべき音楽を失っている世代。だから、レ・ジノサンにも20年前と同じことをして欲しいと思っている世代。新アルバム『マンダリーヌ』はその期待に100%呼応するものです。頑固な二人です。期待されていたフォーク/アコースティック・ポップは職人芸的で、往年のようなFMヒット性は薄いけれど、ほそぼそコツコツ仕上げましたという感じの10曲。16年ぶりなのだから、マーケティング的な色目たっぷりに大予算でアビーロードやロサンゼルスで録音するみたいなことを考えてもよさそうなところを、ほとんどたった二人でパリ下町(ジペ・ナタフの生活現場)メニルモンタンでちまちまっと録音してできたアルバムです。55歳的現在と業界不況的現実(予算が出ない)をも取り込んでしまった等身大の作品という見方もできましょう。
 第一曲めの"Les Philharmonies Martiennes"(火星音楽愛好会)で、え?何語?と耳を疑ってしまう、ナンセンスだけれどやたらノリの良いフランス語単語をつないだようなジュゲムジュゲム式の美しいポップフォークが始まったら、なにか手作り作業で制作されたミッシェル・ゴンドリー映画のような楽しさに包まれます。聴きやすそうで、その実インテリジェンスを刺激する奥深さです。
 アルバム2曲めは運命的にアルバムで最も強力な曲として聴かれるわけですが、"Love qui peut"(できるラヴ)は、甘苦い青春フォークポップのノリで始まりながら、メロも複雑化し、歌詞は印象的摩訶不思議にもつれ込んで行き、という往年の10CCを思い起こさせる珠玉の曖昧ラヴソング。こんな曲者ポップばかりなのですよ。
 アルバムタイトルの『Mandarine(マンダリン)』 はアルバム最後10曲めの"Sherpa(シェルバ)"の歌詞の中に1回だけ登場します。
tout, tout すべてを すべてを
j'achemine 僕は運ぶ
j'achemine 僕は運ぶ
under the moon アンダー・ザ・ムーン
je patine 僕はスケートする
je cours 僕は走る
je cours 僕は走る
je fixe le soleil mandarine 僕はみかん色の太陽を見つめる
je fixe  僕は見つめる
そうか、マンダリンは太陽の色でしたか。メニルモンタンの密室で作ったサウンドでしょうが、とても陽光を感じさせる抜けの良いポップアルバム。何回も何回も繰り返して聴くことができるスルメ味わいの作品。スノッブで高踏的で遊びも諧謔もある。いい感じで歳とってくれました。

<<< トラックリスト >>>
1. LES PHILHARMONIES MARTIENNES
2. LOVE QUI PEUT
3. LES SOUVENIRS DEVANT NOUS
4. HARRY NILSSON
5. PETITE VOIX
6. FLOUES DU BANJO
7. J'AI COURU
8. ERRETEGIA
9. OUBLIER WATERLOO
10. SHERPA

LES INNOCENTS "MANDARINE"
CD SONY MUSIC 88883748792
フランスでのリリース:2015年6月

カストール爺の採点:★★★★☆

(↓)レ・ジノサン"Les Philharmonies Martiennes"

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