2014年3月23日日曜日

クロ・ペルガグの奇天烈な世界・2

(前項に続く)
 クロ・ペロガグにはやっぱり公式サイトというのがあるんですね。ずばりクロペルガグ・ドットコムです。そこにはいろいろな情報が公開されていますが、新人の分際で、いっぱしのアーチストと同様に「バイオグラフィー」の項があります。で、このお嬢さんはどんな「経歴」なのかと読み始めると...。

私が最初に彼女を見たのは鏡の中だった。その髪の毛は長かったように思う。42歳にして9人の子持ち、重いが納得できる前科歴 があり、体重230ポンド(約104キロ)の体を支え、重大な聴力の問題を抱えながらも、彼女は歌を書き始めたのだった。その歌はもっぱらH1N1型インフルエンザ予防ワクチンのことをテーマにしている。彼女の主なインスピレーションの源は「ボクシング・デー」であり、アル中の父と空き瓶再生業者の母の黄色っぽい視線にされられながら、彼女はピアノを弾くようになったのである。もしも彼女に自制心がなかったら、彼女はスイカを満載したトレイラーになっていただろうが、その荷物車の後ろにあるべき小さな「玉」が欠けていたのだ...

 翻訳することに意味があるか、と思わせるようなクロ・ペルガグ「バイオグラフィー」の冒頭部分です。 わかりますか? クロ・ペルガグというお茶目なお嬢さんは、あんな顔をしていて、年寄り、ハンディキャップ持ち、犯罪者、貧困、病気....なんか笑っちゃっていいよね、ギャグになるよね、歌になるよね、と言ってきゃっきゃっきゃとはしゃぎながら、五線譜にちゃかちゃかちゃかっと走り書きできちゃうタイプの音楽家だと思うのですよ。しかし良識人から見れば、これ、冗談にしてはちょっときつすぎるのではないかと思うムキもあるでしょうよ。このキツさを、私たちは都合のいい言葉で「シュールレアリスム」と呼んで、無理矢理納得しているようなところがありますね。
 (↓)に貼ったのは2013年9月にケベックでクロ・ペルガグのデビューアルバムが出た時に、ケベックの音楽情報ウェブチャンネル Live Toune によるインタヴューです。この中でインタヴュアーのおねえさんが「あなたの歌のインスピレーションはどこから来てるんですか?」とまともな質問をします。それに対してクロは「あたし自身そんなものどこから来てるんだかわかんないのよね。多分毎日の生活に興味があって、どんなことでも材料になっちゃう。例えば通りを歩いていて、見たらゴミ袋が街路樹にひっかかってる。え?こんなとこでゴミ袋が何をしているの? それが壮大なるシャンソンになってしまうのよ」なんて答えをするのですよ。こんな答えばかりでインタヴュアーのおねえさんはちょっとイライラしているのがよくわかります。

 このインタヴューでもうひとつ傑作なやりとりは、「初めて歌を作ったのは何歳
?」という質問に「16歳の時、ってことにしてるんだけど、実は3歳の時に両親の結婚のことを歌にしたものがあるのよ。"リーズとブルーノの結婚"という歌なんだけど、とってもラジオ向きの曲なのよ」と答え、面白がったインタヴュアーのおねえさんが「ちょっと歌ってみてよ」とお願いしたら「それは禁止なの。著作権は両親にあるのよね、たぶんその権利書はスペインのどっかにあるはずなんだけど」と!

 めちゃくちゃなことを平気で言うお嬢さんです。このアルバム『怪物たちの錬金術』の中には、題目通りの怪物たちが登場する歌があります。2曲めの「カラス」という曲です。フランスの童謡「月の光に (Au claire de la lune)」の変奏曲のように始まります。詞の字面だけ読むと、これは満月の夜に密室で薬物をつかって、怪物や死や不死や人工のパラダイスをぐるぐる回ししているような歌に見えます。本気でやっているんでしょうか? たぶんこれも冗談でできちゃった歌なんだと思いますよ。


霧の薄明かりの中で、私はおまえの写真を撮った
夜がおまえの影を水の中で燃やした
近頃港に浮かんで来る泡を私にわけておくれ
出ていく船はおまえの灰を煙にしている

私は眠るための錠剤を飲んだ
私の小部屋を照準器に変えた
そこから私は怪物たちがゆっくりと死んでいったり
生き返ったりするのが見える、あなたにはそれが聞こえるか?

今夜は満月今夜は満月
今夜は満月今夜は満月
月はカラスでいっぱいだ
そして列島、そして列島
そして列島は私のハサミで切り刻まれた

昼は夜のように暗く、私は自分を忘れる、自分を忘れる
私の心臓をお食べ、そして祈って
ミツバチたちが私の凍った血を嗅ぎ取ってやってきて
私の死体を蜜に変えてくれるように

私は何光年も持続する安楽を探していたの
私は他人たちの生活を逆の方向から見ていた
そして私は砂漠の中に雨を見つけたのよ
そして私は海の懐の中で目覚めた

今夜は満月今夜は満月
今夜は満月今夜は満月
月はカラスでいっぱいだ
そして列島、そして列島
そして列島は私のハサミで切り刻まれた

私には苦痛が見える 私には苦痛が見える
私には墓の中の秘密の苦痛が見える
私には苦痛が見える 私には苦痛が見える
私にはあなたの肌の毛穴の中に苦痛が見える



 (『クロ・ペルガグの奇天烈な世界』 ー この項さらに続きます。)

 PS:3月24日
東京渋谷エル・スール・レコーズのクロ・ペルガグ紹介ページ
 

2 件のコメント:

picoprimo さんのコメント...

フランスギャルを検索していてこのブログを発見しました。
いやいや、面白いブログですね。
私の生まれた1965年のPoupée de cire, Poupée de sonが好きです。

Pere Castor さんのコメント...

picoprimo 様
コメントありがとうございます。投稿コメントが極端に少ないブログなので大変励みになります。
以前は読者コメントがトップページに表示される機能のガジェットがあったのですが、壊れて反映されなくなりました。もうそろそろ全面的なリニューアルの時期かな、と思っています。
月2〜3回の更新です。またお越しくださいませ。