2014年3月18日火曜日

クロ・ペルガグの奇天烈な世界・1

ケベック生れの23歳。クロ・ペルガグという憶えづらい名前は、このアーチストが気になり出したらすぐに憶えてしまうものです。気になるんですから、一生懸命記憶しようとするじゃないですか。クロエ・ペルティエ=ガニョンというのが本名ですが、こちらも憶えづらい。約めてクロ・ペルガグとしたのですが、それは「山本リンダ」が「山リン」と約めるのとは難度において何万光年の距離があるわけです。
 アルバム『怪物たちの錬金術(L'Alchimie des Monstres)』は2013年の9月にケベックで発表になり、フランスではその5ヶ月後の2014年の3月に出ました。その間にフランス国営音楽FM局FIPが盛んにこの女性アーチストをオンエアするもんだから、私も聞く耳立ってしまって、去年の11月頃からいつフランス盤は出るのだろう、とずっとチェックしておりましたよ。ケベックではさまざまな賞をもらってしまって、フランスでも2014/2015年の大規模なツアーが決まったし、テレラマ誌、レクスプレス誌、国営ラジオFIPとフランス・アンテールなどがやや騒々しくこの娘さんのことを語り始めました。
 3月3日のフランス盤リリースに先立って、2月12日に日本の職業上のパートナーたちに向けて丸一ページのアーチスト・インフォメーションを送りました。「作詞・作曲・歌・ピアノ・ギターをこなし、メロディーの引き出しが幾十もありそうなガーシュイン型のコンポーザー、電子楽器群を排して凝り性なストリングス・アンサンブルのバッキングに、カミーユ〜ファイスト系の丸っこく変幻自在なヴォーカル、病気な怪物たちからインスパイアされたシュールレアリスティックな詞...」みたいなことを長々と書いたのですが、そりゃあ誰もピンと来なかったでしょうね...。
 3月11日、パリ18区のレ・トロワ・ボーデで(もちろん)初めてライヴを見ました。チェロ、ヴィオラ、ヴァイオリン、コントラバス、ドラムスという彼女のパーマネントバンドを引き連れて、自らはピアノ(あるいはギター)を目一杯弾きながら歌います。アルバムの編曲の完成度をなぞるように、腕達者でよく統率のとれたアンサンブルです。クロが何も楽器を持っていない時は片脚立ちで、浮いた方の片脚を前後にバランスさせたり丸く円を描いたり、とても奇妙なフラミンゴポーズで歌います。この人のバランス感覚は特殊で、引力に逆らうのが平気であるかのような図です。しかしこのお嬢さんは高盛りのビーハイヴヘアのてっぺんから足のつま先まで、全身これ音楽、というオーラがまぶしいです。初のパリのステージでアンコール4回出ました。
 しかし、私にはショックなこともありました。クロ・ペルガグのMCがほとんど聞き取れない。何を言っているのか、さっぱりわからない。それはケベック・フランス語で喋っているから、というだけではないのです。当夜のレ・トロワ・ボーデの客はみんながみんなクロ・ペルガグの親衛隊というわけではなかったでしょう。私のような普通のパリ圏人だっていたでしょう。ケラケラ笑いながら早口でジョークを飛ばすお嬢さんは、「へへへ...パリ人になんぞわかってくれなくてもいいわ...」という軽い態度で、「わかんない? じゃ次...」と頓着せずにショーを続けるのです。これがねえ、逆にわからない部分をお笑いにするコミュニケーションが湧いてきます。したたかで同時にお茶目なキャラです。見てるだけで、(わからなくても)聞いてるだけで、しあわせを共有できるようなキャラクターなのでしょう。
 その世界はシュールレアリスムであるとは聞いていました。この場合のシュールレアリスムはう〜ん...と腕組みして考え込むようなものではなく、なんだかわけわからんけど大笑いしてしまう、というものです。何を笑っているのか? わからないけれど可笑しい。このあたりをひとつの歌を例にとって説明してみたいと思います。説明できるものかどうかわかりませんが。
 CD2曲めの「花の熱 (La fièvre de Fleurs)」は、死の床にある病人(女)との出会いと別れの歌です。高熱を出して、もうダメだと何度も匙を投げられるのですが、その度に助かって病床生活(つまり生の世界)に還ってくる。病院にうんざりして逃げ出そうとするのですが、やっぱり病床生活に還ってくる。看病する「私」に「おまえはどんどん誰かに似てきてるねえ」などと言いながら、その誰かを思い出せなくなっている。そういう死の床にある病人が、白血病になって、化学療法(ケモセラピー)の病棟に移される。ケモセラピーの国への旅、お達者で〜〜〜...。(ラフですけど、以下に対訳貼っておきます





私は彼女が死に際で高熱を出している時に知り合った

彼女は高熱の度に病気で死んでしまうかもしれなかったのに

いつも助かり、その病床生活にもどってきた

私は彼女が死に際で高熱を出している時に知り合った



私は彼女のブロンドの髪を三つ編みにしてあげた

それは床まで届き、家中のすべての部屋に伸びていった

彼女は私に言った「私は逃げ出したいの

いつも同じものばかり食べるのにもううんざりなの」

でもいつもその病床生活にもどってきた



彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった

彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった

彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった



みんなが暗記できるようにおまえは花の名前を名乗るんだ

おまえの思い出はチョコレートのように甘美だ

みんなが暗記できるようにおまえは花の名前を名乗るんだ

おまえの思い出はチョコレートのように甘美だ

おまえはどんどん誰かに似てきている

私の知らない誰かにね



彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった

彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった彼女は行っちゃった



彼女は夏のように行っちゃった

雲と一緒に彼女は旅立っていった

旅程のない旅に、旅程のない旅に

彼女は白血病の国へ旅立った

彼女はすべての本を私に置き去りにして

ケモセラピーの国で生活するために

行ってしまった ケモセラピーの国

それは新しい国


 こういうのがポップ・ソングになりえるんですか? どういう神経でこんな病気と死の世界を歌にできるのか? 普通あきれますわね。ところがクロ・ペルガグのシュールレアリスムにはそれが可能なのです。だからこの人すごいと言っているのです。ほんの一例でした。
(この項続きます。)

(↓)クロ・ペルガグ「花の熱 (La Fièvre des Fleurs)」ヴィデオクリップ



KLO PELGAG "L'ALCHIMIE DES MONSTRES"
CD Zamora/L'Autre Distribution AD2792C
フランスでのリリース:2014年3月3日

カストール爺の採点:★★★★★








 PS:3月24日
東京渋谷エル・スール・レコーズのクロ・ペルガグ紹介ページ




2 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こちらのブログを読んでとても興味を持ち、エルスールレコードまで買いに行きました。しかし、売り切れで、別ルートで購入したのですが、それから毎日ずっーと聞いています。素敵なミュージシャンを教えていただきありがとうございました。いつかライヴに行こうと思います。mizue

Pere Castor さんのコメント...

Mizueさん、コメントありがとうございます。クロ・ペルガグ、少しずつですけど日本で反響がひろがっています。もっとちゃんとした形で日本で紹介されるよう、私も切に切に願っています。
クロ・ペルガグのパリの次のコンサートは6月10日に 104(CENT QUATRE)で。
http://www.104.fr/programmation/evenement.html?evenement=338