2013年8月19日月曜日

あたりまえだのストロマエ

ストロマエ『√(平方根)』
STROMAE "√ (Racine Carrée)"

 「平方根(へいほうこん)」という訳語を見つけたら、そのままストロマエに "Hé, ho, con!" と呼び返したくなったのでした。お立ち会い、2013年夏、最高のアルバムです。"Brel Electro"(エレポップのジャック・ブレル)とまで評されるようになったベルギー男のセカンドアルバムです。できるだけ多くの人たちに聞いて欲しいです。
  言うまでもないことでしょうが、ストロマエ(Stromaé)という芸名は「マエストロ(Maeetro)」のベルラン(逆さ言葉)です。こう名乗るんだから、最初から自信あったんです。1985年ブリュッセル生れのこのやせっぽち君は、母親がベルギー人、父親がルワンダ人で、その父親はかのルワンダ大虐殺(1994年)で亡くなっています。新アルバムの2曲め "Papaoutai"はこの不在の父親というテーマの歌で、「赤ん坊をどうやって作るのかは誰でも知っているが、父親をどうやって作るのかは誰も知らない」という強烈な歌詞が出てきます。ジョニー・アリディ、フランソワーズ・アルディ、ロジャー・ウォーターズ(ピンフロ)の例を出すまでなく、父親の不在のアンニュイは多くのロック・ヒストリーを作っていくのですが、ストロマエはその系譜のひとりでしょう。
 3曲め"Batard" (バタール、英語のバスタードとほぼ同じで、混血児、私生児、雑種、その他良い意味では絶対に使われない侮蔑語)も、ストロマエ自身のアイデンティティーの問題に直接関係した歌で、白でも黒でもない、右でも左でもない、男でも女でもない、フランドル人でもワロン人でもない、ラシーヌ(根、ルーツ)のはっきりしない自分をマニフェスト的に過去・現在・未来にわたって俺は「どっちつかず」の道を選ぶ、と歌います。
 とは言いながら、自分にまとわりつくアフリカとヨーロッパ(ベルギー)を誇らしげに見せることもあります。2011年に急逝したカボ・ヴェルデの「裸足のディーヴァ」セザリア・エヴォラに捧げる "Ave Césaria" (5曲め)、ベルギーの国民食「ムール・フリット」(ムール貝の白ワイン蒸し+フライドポテト)を南アフリカのズールー・コーラス風に讃歌してしまう "Moules Frites"(7曲目)など、ストロマエの一筋縄ではいかないひねくれたワールド音楽アプローチに脱帽します。
 アルバムタイトルの"Racine carrée"とは数学のルート(√ =平方根)のことですが、別の訳をしてみると「はっきりとした根」ということになりましょう。アルバム全体を通して感じられるのは、「はっきりとした根」など持っていないストロマエが、必死になってアイデンティティー探しをしているような実直さに胸が痛くなります。3年前のファーストアルバム "Cheese" では、もっともっと冗談の側の人だったし、自分でやっているエレクトロ・ミュージックを小馬鹿にするような皮肉と黒い諧謔が印象深かったアーチストでした。まあ、多くの人たちがシングルヒット "Alors on danse"だけで消えてしまうだろう、という予想をしていたこともありますが...。それが、ベルギーのエレクトロ小僧から、「ジャック・ブレルの再来」という尾鰭までついて、「シャンソン・フランセーズの巨大新星」みたいに言われるようになったんですよ。
 そのきっかけになったのが、先行で2013年5月からオン・エアされた "Formidable"(アルバム6曲目)のヴィデオ・クリップなんです(↓)。
YouTubeで本日の数字で17百万ビュー。


 その他、ビゼーの「カルメン」をベースにして、「恋はツイッターの鳥のようなもんで、人がブルーでいられるは48時間だけ」なんていう憎たらしく2013年的に的を得た歌い出しから始まる"Carmen"(8曲め)、そして某レヴューによると「リタ・ミツコ『マルシア・バイーラ』以来」のガン(癌)と死に正面から向かって歌い上げた"Quand c'est ?"(10曲め。「いつなの?』 - カタカナ読みすると「カンセ」、癌のcancer「カンセール」と掛けてます)、仏ラッパーのオレルサンセクシオン・ダソーのメートル・ジムと元気いっぱいに世の中に毒づいている "+AVF"(13曲め)など、納得のいく曲にあふれています。しかし、キーワードはメランコリーでしょうか。泣きながら、汗まみれで歌ってしまうジャック・ブレルとは継承も断絶もありましょう。

<<< トラックリスト >>>
1. Ta fête
2. Papaoutai
3. Bâtard
4. Ave Césaria
5. Tous les mêmes
6. Formidable
7. Moules frites
8. Carmen
9. Humain à l'eau
10. Quand c'est ?
11. Sommeil
12. Merci
13. + AVF

STROMAE "√ "
CD MOSAERT/UNIVERSAL 3747987
フランスでのリリース:2013年8月19日

(↓ "Papaoutai" 父ちゃんどこにいたの?)


5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

こんにちは。ストロマエづてで今日こちらにたどり着き嬉しいです。音楽ファンではなく、たんなる1ストロマエファン(キチガイの域です)に過ぎない私です。仏語ということもあるのか、あまり日本でストロマエがうまく評価され辛いようで残念に思っておりました。他のファンと知り合い、未来のファンとつながるべく、慣れないながらもFBにファンページを開けたばかりです( https://www.facebook.com/StromaeJapon )カストール爺さんのストロマエ評に、するり彼に入り込んだ時の私の気持ちや視点がピタッとあってしまいました。作曲の絶妙のスパイス使いと言葉遣い、仕事のタイミング使いも良いし、彼の素直な表現はこちらも素直になることを即されるようなそんな感じです。様々な人間性を一つに合わせたような彼が歌う多くの曲は私には素直に響き涙を誘います。昨日Tumblr!の登録で、ユーザー名をatarimaestromae にしたばかりだったので(笑) こちらの記事のタイトルにニンマリです。お書きの書評が素晴らしいので、FBで記事をシェアさせていただけますか?
私は ストロマエ熱が高じて仏語の勉強迄始めた所で、せっせと勉強がてら歌詞訳に取り組んでおります。フランスにお住まいだそうで、、私はイタリアのフィレンツェに25年ほどおり、この度の仏語独学であ〜やっとイタリア語が少し役立ったぞと思いました。他の記事もまたじっくり拝見させて下さい。北原

Pere Castor さんのコメント...

北原さん
コメントありがとうございます。
今FBの StromaeJaponに「いいね」したところです。もうどんどんやっちゃってください。応援します。
正直言いまして、『ラシーヌ・カレ』が出た頃から考えると、これほどビッグになるとは思ってませんでした。
ストロマエについては、活字メディアでは、日本の音楽雑誌ラティーナに2013年10月号と、2014年6月号にそれぞれ4ページずつ書きました。ぜひ読んでみてください。入手が難しい場合は、PDFで送ることもできますから、別途メールで申し付けてください。
このブログのストロマエ記事のページビュー数も掲載10ヶ月で2700ほどの大盛況(私のブログにしてみれば、ですけど)です。北原さんのFBストロマエファンページも、すぐにこれぐらいの「いいね」がつきますよ。私が請け合います 。

匿名 さんのコメント...

WOW!たった今シェアしちゃった所です。では早速大波サーフィンしに行ってきます。ドキドキ。ありがとうございます。

さえくん さんのコメント...

こんにちわ!サエキけんぞうと申します。ゲンスブールの日本語曲(専門家に訳詞していただき、自分が歌詞にする)を歌っています。「スシ頭の男」(2003年)をフランスでリリース、ライブツアーも行ってます。
マエストロは、先日、偶然知ったばかりです。もっと早く知りたかったです。彼のサウンドは、最新のEDMからフレーズがちりばめられており、しかし構築が全くEDMとは違うため、そうしたイージーな見方を免れるという、極めて知能犯的なものです。そして、その沈痛な響きを持つ歌にはショックを受けざるを得ません。日本には何も情報がないので、検索でここにたどりついたのは僥倖でした。ご教授ありがとうございます。どうかよろしくお願いします。

Pere Castor さんのコメント...

サエキけんぞう様、コメントありがとうございます。コメントが目立たないブログ(既成テンプレートがそういう作りになっているので)ゆえか、コメントが極めて稀少なので、どのコメントもありがたくたいへん励みになります。今年も7月にサンチエ・デ・アールに出てらしたのですね。知らなかったとは言え、行かなくてごめんなさい。と言うよりもプロモ全然ダメですよね。コミュニティー・メディアとイヴェント情報メディアぐらいにはちゃんと告知してほしいです。知らない間に来てる日本のアーチストたちすごく多いです。一応業界内部の人間である私ですらこうなんだから、一般市民は推して知るべしです。もったいないと思いますよ。
数年前にメゾン・デ・キュルチュール・デュ・モンドに出られた時に、プロデューサーのティエリー・ヴォルフに招待もらって行きましたよ。ゲンズブールとクロード・フランソワのレパートリー半々のショーでした。「仕事をやめよう陽の当たる月曜日は」この日本語歌詞は無敵ですね。マニフェストとして通用しますよ。この諧謔感覚はバイリンガル環境にある私にはフランス人に「日本語はこうだぞ、どうだまいったか」と言いたくなる、原詞をはるかに凌駕した(ゼネストを煽動しかねない)ヘドニスム宣言に聞こえます。さんさんの太陽の月曜日ほどフランス人に恨めしいものはないでしょう。とは言うもののこの太陽のありがたみが、日本ではそれが出たとたん幅広帽や日傘や長手袋で武装してしまうわけで、何がありがたいわけでもない。この文化的デカラージュを痛感しながら日々生きております。またお越しください。