2013年5月19日日曜日

そんな顔するなよ...(Fais pas la tête...)

Thomas Fersen "Elisabeth"
トマ・フェルセン「エリザベート」(1999年)

 詞曲:トマ・フェルセン

 もっともっと知られてもいい人だと思います。トマ・フェルセン(1963 - )の1999年のアルバム"QU4TRE"(これでキャトルと読む。4枚目のアルバム。日本盤も出たことになっている)に入っていた曲で、シングル化もされました。左がそのCDシングルのジャケットイメージですが、写真はいつものジャン=バチスト・モンディーノです。また2001年のトリブルライヴアルバム "TRIPLEX”の中のライヴ・ヴァージョンの方が一般的にはよく知られているかもしれません。
 娘がまだ小学生の頃、学校の授業でトマ・フェルセンの「こうもり La Chauve-Souris」(これもアルバム"QU4TRE"の中の曲)を習ったと、歌ってくれたことがあります。確かに寓話的な歌ですけど、フランスではこんなシュールな歌を子供に教えるのだ、とちょっとびっくり。その同じ頃、オランピアのトマ・フェルセンのコンサート(前座がダチのイニアテュスだったのでインビテーションもらった)に娘を連れて行ったら、結構そういう子連れの客がいて、「こうもり」は子供たちを含めた場内大合唱になる、という塩梅。(↓このヴィデオはその頃のものだと思います。なんてしなやか。すばらしい。)


 さて「エリザベート」です。
 これはこの前の「マリクリスティ〜〜〜ヌ!」と同じように、男が愛する女に和解を嘆願する歌です。「マリー・クリスティーヌ」では男は酔っぱらいでしたが、「エリザベート」では男はウソつきなのです。どれくらいのウソつきか、ということを歌詞訳して説明しようと思ったのですが、訳しづらい箇所がちょこちょこあって、あまりこなれた日本語になっていません。特に歌詞2番の
Il me fallait des cigarettes,
Un miroir aux alouettes,
Et puis j'ai acheté du fil blanc
Ainsi qu'des salades et du flan
の "Un miroir aux alouettes"ですね。これは私の手持ちのスタンダード仏和辞典では「(ひばりをおびき寄せる)鏡罠(かがみわな);おびき寄せるもの」と説明されています。タバコと「鏡罠 」と白糸とサラダとカスタードプリンを買ってきた、ということになりましょうか。なんとなく「日曜日に市場へ出かけ、糸と麻を買ってきた」というロシア民謡「一週間」を思い起こさせるナンセンスな歌詞です。トゥリャトゥリャトゥリャ...。まあ、口からでまかせのウソというニュアンスがわかってくれればいいんです。"cigarettes"(シギャレット)に韻を踏むために"alouettes"(アルーエット)、"blanc"(ブラン)に韻を踏むために"flanc"(フラン)と、踏韻辞典(dictionnaire des rimes。こういうものがフランスにはあり、作詞家または町詩人のバイブル)から適当に無作為に選んだだろうと思われるナンセンスな歌詞ですね。これでいいんですけど、これを一生懸命日本語にしようとしなければならない時(歌詞対訳の仕事が来た時)、私は4行で一晩中悩むことがありますよ。
 では「エリザベート」の向風版和訳です。
腕時計が落ちて車に轢かれ、
転がって穴に落ちてなくなったんだ
それで俺は終電に乗り遅れた
そうともこんなことは初めてじゃない
でも俺はうそつきじゃない
恋人よ、おまえは僕の心を掴んでいる
もしこの言葉にこれっぽっちのうそがあるのなら
俺はラバに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

タバコが切れてたんだ
それから鏡を使った罠も必要だったんだ
そのあと俺は白い糸を買った
サラダとカスタードクリームパイも買った
おまえはいろんなことを想像するかもしれないが
ごらんよ、俺はバラの花束まで買ってきたんだ
もしもこれらのことにこれっぽっちのうそがあるのなら
俺はヤギに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

まるで裁判にかけられてるみたいじゃないか
俺は遅れてきたんだ、ただそれだけじゃないか
遅れたって言ったって、絞首刑や銃殺刑に処されるほどの
遅さじゃないじゃないか
おまえは知ってるじゃないか、俺は信じるに値する男だって
おまえは俺を信頼していいんだ
もしも俺の口からこれっぽっちのうそがこぼれているのなら
俺はハエに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

おまえは知ってるじゃないか、俺は純真な子だって
俺は修道女たちによって育てられたんだ
じっと見つめられたら目が落ち着かなくなるのは
俺が急いでたっていう証拠さ
これは規律正しいボーイスカウトの言葉さ
おまえがそれを疑うことはできないさ
もしも俺の頭脳からこれっぽっちのうそが滲み出ているのなら
俺はロバに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

いいとも、正直に白状しよう
おまえがその気なら、信用してくれたらいいさ
実は旧い親友にばったり遇ってしまったんだ
そいつには明日も会うことになってるんだ
俺がでたらめや作り話をしてるなんて
想像しないでくれよ
俺が友だちを使ってこれっぽっちのうそをつくなんてことがあったら
俺はウサギに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

確かに、俺には時間が必要だった
確かに、俺には10年の年月がかかった
確かに、俺はおまえに頻繁に便りを出さなかった
おまえはと言えば、修道院に入ってしまった
でもおまえは角頭巾をかぶっていてもきれいだよ
いやいやこれはたわごとなんかじゃない
もしも俺の帽子からこれっぽっちのたわごとが出て来るもんなら
俺はカエルに変身してしまうよ

そんな顔するなよ エリザベート
そんな顔するなよ エリザベート

タバコが切れてたんだ
それから鏡を使った罠も必要だったんだ
そのあと俺は白い糸を買った
サラダとカスタードクリームパイも買った
おまえはいろんなことを想像するかもしれないが
ごらんよ、俺はバラの花束まで買ってきたんだ
もしもこれらのことにこれっぽっちのうそがあるのなら
俺はヤギに変身してしまうよ
ヤギにも、ネズミにも、カエルにも
ラバにも、ハエにも、ラクダにも変身してしまうよ

エリザベート!
(↓)「エリザベート」



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