2012年5月4日金曜日

モワ、プレジダン・ド・ラ・レピュブリック...


 昨日に引き続き、5月2日の対決テレビ討論の終盤のハイライトです。討論は失業問題、購買力の問題、フランスおよび欧州の経済の問題、国際関係、原子力と環境の問題、移民政策の問題などに及びましたが、叩き台はオランドの側にあり、オランドの各々の問題に関する公約プログラムを徹底的に攻撃するというのがサルコジの戦法でした。曰く、オランドのやろうとしていることは、スペイン社会党やギリシャ社会党が長年やった結果、国を破産状態に追い込んだそれと同じことだ。フランス国民はフランスがスペインやギリシャの道を辿ることを望むのか、それとも危機を乗り越えてきたサルコジの道を選ぶのか、という論法ですね。というわけで、相手を論難することに終始するので、サルコジがこの先5年間にしようとしていることはほとんど言わない。これは言わば「野党」の立場になっちゃった、という見方もできます。こういう展開で結論部まで来てしまったので、 たぶんサルコジ支持者も、サルコジが来るべき5年間に何をするのか知ることができない、サルコジはサルコジであり続けるということだけで満足して投票するしかない、という時間切れです。

 「最後に、あなたはどのような大統領になるつもりですか?」

 ここでオランドはあっと驚く大攻勢に転じます。「私、共和国大統領はXXXXをする」、「私、共和国大統領は XXXXをしない」という15項目に及ぶ簡潔なメッセージを、立て板に水の名調子でまくしたてます。メッセージの最初は必ず「Moi, président de la République(モワ、プレジダン・ド・ラ・レピュブリック)」で始まります。レクスプレス誌の説明では、これは2008年のバラク・オバマの「I, president...」という演説がリファレンスらしいです。しかもこれは、まったくの即興(インプロヴィゼーション)であったと報じられています。では、問題の3分20秒の「モワ、プレジダン・ド・ラ・レピュブリック...」を訳してみましょう。

私、共和国大統領は、議会多数派の首領とはならない、私はエリゼ宮(大統領府)に議会多数派の議員たちを招いたりしない。

私、共和国大統領は、首相を手下のように扱わない。

私、共和国大統領は、自分の政党の資金集めのための(パリのホテルでの)パーティー などに参加しない。

私、共和国大統領は、司法を独立したかたちで機能させ、司法官職高等評議会(Conseil Supérieur de la Magistrature)の意見を差し置いて検事室の構成員を任命したりはしない。

私、共和国大統領は、公共放送局の局長を任命することはせず、各局の独立した決定にまかせる。

私、共和国大統領は、いかなる時も自分の挙動が模範的であるよう心がける。

私、共和国大統領は、刑法上の大統領罷免特権を行使しないよう心がけ、仮に私の大統領就任前の行為において疑義が持たれた場合、私が判事の喚問に応じたり、法廷での説明が可能になるよう法改正する。

私、共和国大統領は、構成する大臣数が男女同数である政府を組織する。

私、共和国大統領は、大臣職の者が職権を私的に行使することを妨げるための倫理規約を立てる。

私、共和国大統領は、大臣職の者が地方首長などの職を兼務することを妨げる。私は大臣職は専任でするべきものと考える。

私、共和国大統領は、中央省庁の地方移転を推進する。私は地方公共団体には新しい職能、新しい権威、新しい自由活動が必要だと考える。

私、共和国大統領は、労使問題のパートナーである雇用者団体と労働者団体がお互いに尊重し合い、労使問題に関する折衝や新法の立案などで定期的な話合いが持てるようにする。

私、共和国大統領は、今夜挙げられたエネルギー問題などについては、国民規模の大討論によって国民の意見を聞くことを約束する。このような問題においては大討論を要することは正当である。

私、共和国大統領は、2017年の国民議会選挙に比例代表制を導入し、あらゆる政治思想をもった政党が議会に代表者の席を持てるようにする。

私、共和国大統領は、(国際舞台における)大きな方向性を決定したり大きな推進力を発揮できる高度な視点を持つことを心がける一方、国民との近い距離を失わないようにし、フランス人の身近な問題に常に心を払うようにする。


 ざっと、まあ、こんな感じです。前半はほとんどサルコジがしたようなことはしない、というサルコジ時代からの決別を宣言し、後半は夢物語の約束ではなく、可能なことを約束するマニフェストです。 これを最後にできたオランドは、役者としてサルコジよりも一枚も二枚も上であった、ということが、多くの視聴者たちに了解されたと思います。
 これが名調子であるのは、下のヴィデオを見て下さればわかると思いますが、翌日にはこの「モワ、ル・プレジダン・ド・ラ・レピュブリック」が サンプルされ、多くのリミックス・ヴァージョン(ラップ、テクノ、ダブ...)が出来て、Youtube上を賑わしています。

(↓5月2日 フランソワ・オランド『モワ、プレジダン・ド・ラ・レピュブリック』)

Hollande : "Moi président de la République, je... par LeNouvelObservateur

(↓『モワ、プレジダン・ド・ラ・レピュブリック』リミックスの一例)

 


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