2012年3月30日金曜日

フェザー級チャンピオン

Dionysos "Dionysos plays Bird 'n' Roll !"
ディオニゾス『バード&ロール!』

 『時計じかけの心臓(La Mécanique du Coeur)』以来4年ぶりの7枚目のスタジオ録音アルバムです。前作はマチアス・マルジウの同名ベストセラー小説の仮想サントラという作りで、生前のバシュングを初め、豪華ゲスト陣が目立つロック・オペラ仕立てでした。上にリンク貼った2008年1月の拙ブログでは「学芸会的」とややネガティヴに紹介しています。なお、リュック・ベッソンの制作で、マチアス・マルジウ自身が監督した3Dアニメ映画『時計じかけの心臓』は2010年に完成したものの、上映のタイミングが何度か延期になり、映画情報サイトAllo Cinéのページではフランス公開が「2012年10月17日」となっています。この映画の(本当の)サントラ盤も制作されたはずですが、多分公開時にリリースになるでしょう。
 映画『時計じかけの心臓』の制作のために、バンドとしてのディオニゾスは休止状態になり、バベット(ヴァイオリン&ヴォーカル)はソロ活動を、リコ(ことエリック・セラ・トジオ、ドラムス)とステファノ(ことステファン・ベルトリオ、キーボード、ウクレレ、バンジョー)はコルレオーネというぶっそうな名前のパワーロック・トリオを始めました。マチアス・マルジウ自身もバンドをやれないフラストレーションの中にありながら、映画制作の合間を縫って一冊の小説を仕上げています。それが『空の果てのメタモルフォーズ』で、子供の頃から鳥になりたいと夢見ていた世界一ドジな(空中落下芸)スタントマンであるトム・クラウドマンが、ガンを発病し、病院の屋上で半鳥半人の少女エンドルフィンと出会い、半鳥女は「あなたの精子で私が妊娠できたら、あなたを本当の鳥にしてあげる」という取引きを提案し、トムはそれを引き受ける、というファンタジー小説です。
 この新アルバム『バード&ロール!』は、前作からの一連の流れからすると、また新小説の仮想サントラの重々しいロック・オペラになるのではないか、と心配されましたが、どっこい軽い、軽い、フィフティーズ/シクスティーズのサーフ・ロック乗りの曲が並ぶ12曲41分の軽量アルバムです。この12曲というのも当初は11曲だったそうで、右に貼ったアルバム裏ジャケの曲名の表示のしかた、わかりますか? そうです、フットボールのフォーメーションなのです。だから11で良かったのですが、12曲めはコーチ扱いなんだそうです。マチアスの子供の頃のヒーロー、ミッシェル・プラチニは小説『空の果てのメタモルフォーズ』の中で、旅芸人トム・クラウドマンの寝床の友である数羽の赤カナリアに全部「ミッシェル・プラチニ」と名前をつけて遊んでいたという下りで登場しますが、これはアルバム10曲め"Platini(s)"という歌になっています。
 『バード&ロール!』 は半分以上の曲がこの小説に多くの題材を依っているものの、それほど忠実ではなく、このストーリーを知らなくても踊りやすさで簡単にその軽妙な世界に引き入れられます。ゲストスターが皆無で、オリヴィア・ルイーズすら出てこないアルバムです。助っ人は女声コーラス隊3人とオリヴィエ・ダヴィオー(ジョアン・スファールのゲンズブール映画の音楽担当した人です)だけ。つまり、これは本当に久しぶりのディオニゾス(だけ)のアルバムなのです。ブラス・セクション、ストリングス・セクション、そんなもの一切なしのロックンロール・バンドの音なのです。
 7曲め「灰色の目をした大きな馬(Le Grand Cheval Aux Yeux Gris)」は小説とは関係ない歌で、もともとは故アラン・バシュングのために書かれた歌でした。ロック&フォーク誌2012年4月号のマチアスのインタヴューで、アランがこの歌を好きになってくれて歌う予定になっていたこと、そしてアランが小説『空の果てのメタモルフォーズ』に多くのインスピレーションを与えていたことが吐露されています。老いて目がほとんど見えなくなった馬はもう人を乗せられないけれど、それでも孤独にパリの町を散歩していた。その灰色の目に見えたのはストロボ電飾で輝くエッフェル塔。馬はその優美なスカートを身につけた女性のように見えたエッフェル塔に一目惚れしてしまい、トロカデロ広場から全速力で駈けて行きます。ところがストロボ電飾が消えてしまい(註:この電飾は夜の毎時零分から10分間だけ続くのです)、何も見えなくなった馬はエッフェル塔に激突して死んでしまいます。バシュングが歌ったら、どうだったろうか、などと想像してみてください。
 1曲め「バード&ロール」からエナージックでアンチ・メランコリックな軽量ロックンロールでほっとします。フィーチャーされる女声コーラスと、時々介入するバベットのヴォーカルも軽めです。ディオニゾス流のウクレレやバンジョーやヴァイオリン(バベット)も軽妙さを際立たせます。個人的にベストトラックは4曲め「スリムパンツのジューン・カーター(June Carter en Slim)」なんですが、これは数日後に詳しく説明しましょう。(続く)

<<< トラックリスト >>>
1. BIRD ' N ' ROLL
2. CLOUDMAN
3. LA SIRENE ET LE PYGMALION
4. JUNE CARTER EN SLIM
5. LE ROI EN PYJAMA
6. DREAMSCOPE
7. LE GRAND CHEVAL AUX YEUX GRIS
8. SEX WITH A BIRD
9. DARK SIDE
10. PLATINI(S)
11. LE RETOUR DE JACK L'INVENTEUR
12. SPIDERGIRL

DIONYSOS "DIONYSOS PLAYS BIRD 'N' ROLL!"
CD BARCLAY/UNIVERSAL 2796124
フランスでのリリース:2012年3月19日

(↓)「クラウドマン」のクリップ



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