2011年6月14日火曜日

9000キロを隔てた似た者同士



SILVERIO PESSOA "COLLECTIU - ENCONTROS OCCITANS"
シルヴェリオ・ペッソア『コレクシウ - オックとの遭遇』


 ブラジル・ノルデスチを代表するアーチストのひとり,シルヴェリオ・ペッソアがオクシタニアのアーチストたちと共演録音したアルバムです。このアイディアはペッソアが2003年からあたためていたもので,ラ・タルヴェーロのダニエル・ロッドーがフランス側のプロジェクト推進者となりました。その行程で,ラ・タルヴェーロとペッソアは "ForrOccitania"(フォッホクシタニア)という2バンドが混じり合ってのツアーをブラジルとフランスで行いましたし,今後も続けるようです。
 ノルデスチとオクシタニアの出会い,ということは昨日今日に始まったことではありません。ずっと昔から知っているような親近性と音楽的&文化的類似点の多さを,最初に不思議に思ったのはクロード・シクルとダニエル・ロッドーの二人で,「トゥールーズ大学カルナヴァル実行委員会」の派遣団として1985年にブラジル/ノルデスチの地を踏んだ二人は,そこに中世オクシタニアのトゥルバドゥール即興詩の伝統がその地に生き続けている,と見たのです。この仮説は大変ロマンティックなものですが,アメリカ大陸発見とそれに続く大航海時代の頃にはトゥルバドゥール文化は既に姿を消しており,立証が難しいようです。このことを本CDのブックレットの解説でダニエル・ロッドーが説明していますが,その85年以来,二つの文化は激しく引き合うようになります。ノルデスチからトゥールーズに移住してしまったリタ・マセド(ファムーズ・T),フォッホーにインスパイアされたバル(ダンスパーティー)をトゥールーズで展開するボンブ・2・バル,傑作アルバム『3968CR13』(2000年)にレニーニをゲスト参加させたマッシリア・サウンド・システム,アルバム『ニッサ・ペルナンブーコ』(
2006年)で本作の主人公シルヴェリオ・ペッソアと共演したニュックス・ヴォミカ,ノスデスチの歌姫レナータ・ローザを招いての一連のツアーで未体験ポリフォニーを披露したルー・クワール・デ・ラ・プラーノ...。
 この引き合い,触発し合う,二つの似た者文化は,どちらも(フランスとブラジルで)中央からの支配的な文化政策とグローバリゼーションに抵抗する文化でもあります。中央メディアには登場しないながらも,地方に根を下ろして生き,地方から声を出す人たちのエコーとなっている音楽です。9000キロを隔てた似た者同士は,熱く共闘しているのです。
 シルヴェリオ・ペッソアの招きでこのCDのために集った人々は,ムッスー・T&レイ・ジューヴェン,ラ・タルヴェーロ,マッシリア・サウンド・システム,ファビュルス・トロバドール,サム・カルピエニア,ニュックス・ヴォミカ,ボンブ・ド・バル,リタ・マセド&アンジュ・B(ファビュルス・トロバドール),フロール・シクル(クロード・シクルの娘)&ジェラルディーヌ・ロペス(ボンブ・ド・バル)...。長い間,見解の相違のために絶交状態にあったダニエル・ロッドーとクロード・シクルの雪解けも思わせる,うれしいラインナップです。欠けてるのはマニュ・テロンぐらいでしょうか。
 タイトルの「COLLECTIU コレクシウ」はオック語で共同作業という意味です。

<<< トラックリスト >>>

1. MARATGE (feat MOUSSU T & LEI JOVENTS)
2. NA BOLEIA DA TOYOTA (feat LA TALVERA)
3. DE ROLE (feat MASSILIA SOUND SYSTEM)
4. TROPICAL OC (feat LOU SERIOL)
5. COCO SAMBADO (feat FABULOUS TROBADORS)
6. POESIA URBANA (feat LA MAL COIFFEE)
7. LA CHUTE (feat SAM KARPIENIA)
8. LO VIATJAIRE (feat NUX VOMICA)
9. FAIT DE TOUT (feat FLORE SICRE & GERALDINE LOPEZ)
10.LA CANCON DE MARCABRUN (feat RITA MACEDO & ANGE B)
11. OS SETE CONSTITUNTES (feat ANTONIO FRANCISCO & LOU DALFIN)
12. J'AI VU L'ALBATROS DANSER (feat BOMBES 2 BAL)
13. MIX RACA
14. DIGA JANETA (feat ORIGINAL OCCITANIA)
15. O NORDESTE OCCITANO (feat ANTONIO FRANCISCO & EDMILSON FERREIRA)

SILVERIO PESSOA "COLLECTIU - ENCONTROS OCCITANS"
CD OUTRO BRASIL OB811381
フランスでのリリース : 2011年7月


(↓ラ・タルヴェーロ&シルヴェリオ・ペッソア・クワルテットによる『フォッホクシタニア』ツアーのプロモーション・ヴィデオ)

Forroccitania by Silvério Pessoa & La Talvera
 

2011年6月2日木曜日

グ大



Aziz Sahmaoui & University of Gnawa "Aziz Sahmaoui & University of Gnawa"
アジズ・サハマウイ『アジズ・サハマウイとグナワ大学』


 アジズ・サハマウイはモロッコ、マラケッシュ出身、1980年代からフランスをベースに活動しているグナウィです。1995年結成のオルケストル・ナシオナル・ド・バルベス(ONB)の創立メンバーのひとり。ジャズやフュージョンとの交流も盛んで、グエン・レ(g)、マイケル・ギブス(g)、ジャン=ピエール・コモのシクスンなどのステージや録音に参加していました。そして2005年にジョー・ザビヌルのダブルライヴアルバム『ヴィエンナ・ナイト』(ウィーンのバードランド・クラブでのライヴ)の録音に招かれ、それ以来ザビヌルが2007年に他界するまで、彼の楽団ジョー・ザビヌル・シンジケートの重要メンバーとなっていました。
 さて1997年から今日まで4枚のアルバムを発表してきたONBに関しては、私は熱心なシンパではなく、なんとなく違うな、と皮膚感覚的に思ってきました。それは乱暴なくくりで言いますと、マグレブ音楽を北側(位置的にはパリ・バルベス)の標準に合わせて洗練する、という作業だったように思えるのです。
 例は悪いかもしれませんが、恐れずに言うと、アルジェリアでもう5年近くも通訳の仕事で暮らしている友人(日本人)が、しみじみとクスクスはパリで食べるのが最高だと言うのです。私もそれはよくわかります。パリ標準のクスクスは多分世界で一番おいしいクスクスだと思います。それは私はロンドンや東京や香港で食べる中華料理でもそう思うのです。おそらくパリの中華料理は世界一おいしいものに思えるのです。このパリ標準というのはオーセンティックなものを凌駕して「パリ的」にしたもので、フランス人の嗜好に合わせることによってオリジナルではないガストロノミーを獲得したものなのです。 
 ONBはそういうきわめて「パリ的」なバンドだと思ってしまうのです。
 で、アジズ・サハマウイの初ソロアルバムは、その洗練さにおいてはONBに何のひけめもあるものではありまっせん。何しろ天下のマルタン・メソニエのプロデュースですから。しかし、そのベクトルとしては、ONBのようにマグレブ音楽を北側に押し上げるということ全く逆に、それを南側に下げてアフリカ化する、という意図が明白に見られるのです。
 それは端的には、ギタリスト(エルヴェ・サンブ)、ベーシスト(アリウン・ワデ)、キーボディスト兼コラ奏者(シェイク・ディアロ)がセネガル人ということに起因するわけですが、地中海をまたぐことなく、マグレブの音が南下することでよりアフリカの熱とビートを深めていく、という初めての成功例に私には聞こえたのです。
 比喩的な意味ではなく、グナワは癒しの音楽です。実際に病気治療として、グナウィがつくる音楽的トランス状態が病める人々を癒し、解放するのです。アジズはそういうことをルーツ回帰的にもう一度学ぼうと思い立ったのかもしれません。冗談のように見えるこの「グナワ大学」というバンド名ですが、本人たちはいたってまじめにグナワを学び直しているのでしょう。いわゆる家元制度的な「流派」ではなく、「大学」として多くの人に門戸を開いた状態で。
 アルバムはその勢いでの突っ走り状態を狙って、スタジオライヴ状態で録音されています。(コーラスと手拍子などがアフレコのようです)。砂漠のトランスという緊張感と隣接してメソニエ効果による隠し味的な挿入音が憎たらしいほどに決まっています。
 その辺のことを、明後日(6月3日)アジズに会ってインタヴューで聞くつもりでいます。詳細は向風三郎のラティーナ連載(2011年7月号)で。

<<< トラックリスト >>>
1. Salabati (trad)
2. Maktoube - short version (Aziz Sahmaoui)
3. Ana Hayou (trad)
4. Khina (Aziz Sahmaoui)
5. Foufou Danba (trad)
6. Alf Hilat (Aziz Sahmaoui)
7. Black Market (Joe Zawinul)
8. Miskina (Aziz Sahmaoui)
9. Sawayé (trad)
10. Rofrane (Aziz Sahmaoui)
11. Mimouna (trad)
12. Tamtamaki (Aziz Sahmaoui)
13. Maktoube - long version (Aziz Sahmaoui)

Aziz Sahmaoui & University of Gnawa "Aziz Sahmaoui & University of Gnawa"
CD GENERAL PATTERN GP005
フランスでのリリース: 2011年4月29日


(↓)2011年5月24日、パリ、ニュー・モーニングでのライヴ映像 "Zawiya"

Aziz Sahmaoui & University of Gnawa - Zawiya, live at the New Morning from General Pattern on Vimeo.