2011年3月1日火曜日

雪のヴェネツィア入り舟ダフネ



Daphné "BLEU VENISE"
ダフネ『青きヴェネツィア』


 紹介が遅れてしまいました。(2月7日リリース)。悔しい。こういうアルバムは誰よりも先に聞いて,誰よりも先に絶賛したかったです。テレラマのヴァレリー・ルウーが「ffff」つけて,バンジャマン・ビオレーの『ラ・シューペルブ』に匹敵すると褒めちぎったあとで,私に何が言えまっしょう。
 ダフネは1974年中央山塊クレルモン・フェラン生れの女性シンガーソングライターです。ジャン=ルイ・ミュラ同様「山の人」です。彼女の才能を最初に認めたのは売れっ子SF作家ベルナール・ヴェルベールであるとされています。その後バンジャマン・ビオレーと邂逅してレコード会社と契約。2005年ファーストアルバム『エムロード(Emeraude)』(カミーユ・ロカイユーのプロデュース,バンジャマン・ビオレーが編曲で参加)。2007年セカンドアルバム『カルマン(Carmin)』(これはV2ジャパン/コロムビア・ミュージック・エンターテインメントから日本盤が出たはず)が,同年のコンスタンタン賞を獲得。とは言っても,ヒット曲が出たりアルバムの売上がびっくりするものだったりということではなく,オリヴィア・ルイーズやカミーユのような派手なスポットライトを浴びたりということもなく,確かな評価だけは手中に収めたという良い結果だったと思います。00年代のそういう女性アーチストでは,バベット,エミリー・ロワゾーと並んでダフネは日本語の「音楽家」という肩書きが似合う人です。

 『エムロード』(緑),『カルマン』(紅)に続いて,3作目は「青」なのです。『青きヴェネツィア(Bleu Venise)』は水色のアルバムです。デビューした時から,この人の声はスティーナ・ノルデンスタムと比較されることが多く,そのイメージからか,私はダフネにまとわりつく「北欧性」がとても気になっていました。で,今回のヴェネツィアですが,2曲目に(とてもスティーナ・ノルデンスタム風な)「雪のヴェネツィア (Venise sous la neige)というのが来ます。夜行列車でヴェネツィアに着いたら,気温零度,二人は雪のヴェネツィアでラスト・タンゴを踊る,という歌です。大気が変わっちゃいますよね。青いヴェネツィアはフィヨルド海岸に飛び地してしまったような。
 美しい冬のブルーです。ジャケットアートは手品師か催眠術師のようなダフネが,私たちに呪文をかけて,ヴェネツィアを印象派的近視眼風景にして眠りの中に誘い込もうとしているかのようです。水も空も寒いブルー。
 ヴェネツィアはいろいろな意味で特別な場所でしょう。実は私はヴェネツィアに行ったことがありまっせん。妻も娘も行ったことがあるのに,私はない。おセンチでチープな浪漫主義ですが,ヴェネツィアに行くというのは「二人で」という限定があるように私は構えてしまうわけです。その「二人」というのもただの二人でないことは言うまでもありまっせん。そう思っているから,私は一生ヴェネツィアに行けないような気もしています。
 それぞれ皆ヴェネツィアに思うことは違うでしょうが,ダフネのヴェネツィアはブルー。そのトーンでまとめられた,夢幻的でメランコリックなアルバムです。この雰囲気づくりに大きく加担しているのがプロデューサーであるラリー・クライン(ジョニ・ミッチェル,メロディー・ガルドー,マドレーヌ・ペイルー...)の超繊細なアレンジメントでして...。その上7曲で20数名のストリングス・オーケストラが霧雨か小雪のような震える弦の音で介入し,その編曲指揮はヴィンス・メンドーサ(ジョニ・ミッチェル,ビヨーク,エルヴィス・コステロ...)。ヴィスコンティ映画のように細部の隠し味が心憎いバッキングです。
 ワルツが3曲("Mélodie à personne","The Death of Santa Claus", "Portrait d'un vertige")。どれもゆったりした三拍子ながら,少し回っただけで悲しみの目眩がおこりそうな魔力。
私は懸崖のふちで暮らしている
大風が吹く日はとても危険
あなたは危険を冒すことを知らない
愛することの危険を
    ("Portrait d'un vertige")

 そして深い憂愁の曲は11曲めにやってきます。"L'Un dans l'autre"。
あなたと私は
からみついたひとつの音符のように
ひとつに重なりあっていた
今となってはどうでもよいこと
私たちは抗うことができずに
一緒にいただけのこと
    ("L'Un dans l'autre")

ささやく高音域ヴォーカルで吐露される過去のこと。私はこういう悲しみが好きです。
 13曲36分。凝縮されてます。たぶんどんな季節に聞いても冬を想わせるアルバムでしょう。聞き終わってふと外を見ると窓ガラスが曇っていて,すべてが青白くなる,そういうアルバムです。

<<< トラックリスト >>>
1. L'appel
2. Venise sous la neige
3. Où va Lila Jane ?
4. Mélodie à personne
5. Moi plus vouloir dormir seule
6. Oublier la ville
7. The Death of Santa Claus
8. Chanson d'Orange et de désir
9. L'homme à la peau musicale
10. Portrait d'un vertige
11. L'un dans l'autre
12. Even orphans have a kingdom
13. Hors temps

DAPHNE "BLEU VENISE"
CD V2/UNIVERSAL 2758963
フランスでのリリース:2011年2月7日


(↓ダフネ "Portrait d'un vertige" ミニクリップ)



PS : 3月4日
(↓これも低予算ミニクリップで途中でフェイドアウトですが、アルバムで最も美しいワルツのひとつ "Mélodie à personne")


(↓ヴァレリー・ルウー女史が「ffff」で絶賛したテレラマ誌のためのスタジオ・セッション "Mélodie à personne")

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