2011年2月5日土曜日

アー・ユー・エクスペリエンスト?



The Serge Gainsbourg Experience "The Serge Gainsbourg Experience"
ザ・セルジュ・ゲンズブール・エクスペリエンス『ザ・セルジュ・ゲンズブール・エクスペリエンス』


 没後20周年ですから。
 ブラッド・スコットはアルチュール・Hのバシブーズーク・バンドのコントラバス奏者だった人です。私はこの人が初期アルチュール・Hのステージ(90年代初期ですね)で、ひとり浪々とレオ・フェレの「セ・テクストラ」を歌ったのを鮮烈に記憶しています。1960年生まれのイギリス人で、クラシック教育を受けたあとで、グラムロックに染まり、次いでパンクになり、どういうわけか1985年に英国を後にしてフランスにやってきます。この「どういうわけか」はとても知りたいところです。ルノー、ビュジー、バシュング、ジャック・イジュランなどのベーシストを経て、アルチュール・Hのバシブーズーク・バンドに辿り着きます。
 シャンソン大丈夫、アコーディオン大丈夫、マヌーシュ・スウィング大丈夫、ジャズ大丈夫、ワールド大丈夫...というフランス寄りのオールラウンド・プレイヤーになっていきますが、それの評価は「最もフレンチな英国人ミュージシャン」を通り越して「最もブリティッシュなフレンチ・ミュージシャン」の域に達しているようなところがあります(RFI Musiqueのクロニック)。
 ブラッド・スコットはゲンズブールの晩年期(とは言っても60歳前後)にテレビ番組収録の楽屋裏で遭遇しており、伝説では2人は熱く音楽を語り合ったということになっています。英国はゲンズブールにとって(バーキンさんを筆頭に)濃厚な縁のある文化であり、ゲンズブールは英国で(死後の異常な再評価を考慮に入れなくても)真正にリスペクトされた数少ないフレンチ・アーチストのひとりでした。
 
 ブラッド・スコットとその仲間、総勢6人のザ・サージ・ゲインズバーグ・イクスピェリエンス(...と米語読みは無理)、もとい、ザ・セルジュ・ゲンズブール・エクスペリエンスは、非常にソリッドでシャープな中年ロックコンボです。ひとくせもふたくせもある人たちによるゲンズブール・カヴァーは、数あるトリビュート盤よりもずっと至近距離を感じさせる、パブ・ロック風にアーティザナルな仕上がりです。凝ったことよりもざっくりした塊のような手応えを重視しているようです。
 のっけからバルドーのために作った「コンタクト」次いで「コミック・ストリップ」と、われらがセルジュのクラシックが、今まで聞いたことのない切り口で迫ってきます。それはギターがギュンギュン鳴り、トム・ウェイツ〜イギー・ポップ型のヴォーカルがマイクわしづかみで震え声を上げ、タイトなロックビートがタテに揺れるというものです。曲によっては英語詞になり、それは80年代にバシュングとのコンビで知られた多国語言葉遊びの達人ボリス・ベルグマンが訳詞しています。10曲め"I just came to tell you I'm going"(オリジナル"Je suis venu te dire que je m'en vais",日本語題はしょぼく「さよならを言うために」)はジャーヴィス・コッカーの英詞ヴァージョンを採用しています。
 超定番曲("Initials BB", "Bonny and Clyde")もあれば、"Requieme pour un twister"(1962年アルバム『セルジュ・ゲンズブール No.4』 の1曲)、"SS in Urguay"(1975年アルバム『ロック・アラウンド・ザ・バンカー』の1曲)のように、あまり知られていない曲もあり、月並みに「ジャヴァネーズ」や「ジュ・テーム・モア・ノン・プリュ」でお茶を濁すトリビュート盤とははっきりと距離を置いています。
 5曲め"Chanson de Prévert"(日本語題はこれまたしょぼく「枯葉に寄せて」)は、アコーディオンをフィーチャーしたジャヴァ・ロック仕上げで、テレラマ誌のヴァレリー・ルウーは「アルノー(註:ベルギーの訥弁ロッカー)がジャック・ブレルの『ヴズール』を歌っているような」と評しましたけど、アコの間奏が『ヴズール』のように火を吹くような勢いになり、笑っちゃいますけど、ブラッド・スコットが「ショッフ、マルセル!」とかけ声を上げてます。
 白眉はやはり『メロディー・ネルソン』からの2曲、7曲め"Valse de Melody",8曲め"La Ballade de Melody Nelson"でしょうか。リスペクトある解釈とブラッド・スコットの熟した声の表現力が際立ちます。ブリティッシュだのフレンチだの言う前に、良く咀嚼された音楽の厚みを感じます。こういう体験は貴重です。
 付け足しみたいですけど、女性ヴォーカル、セリア・スコットの声も似非バルドー/似非バーキンになることなく、ストレートど真ん中です。

<<< トラックリスト >>>
1. CONTACT
2. COMIS STRIP
3. A SONG FOR SORRY ANGEL (SORRY ANGEL)
4. INITIALS BB
5. CHANSON DE PREVERT
6. REQUIEM POUR UN TWISTER
7. VALSE DE MELODY
8. THE BALLADE MELODY NELSON (LA BALLADE DE MELODY NELSON)
9. SS IN URGUAY
10. I JUST CAME TO TELL YOU I'M GOING (JE SUIS VENU TE DIRE QUE JE M'EN VAIS)
11. BONNY AND CLYDE
12. MA LOU MARILOU

THE SERGE GAINSBOURG EXPERIENCE "THE SERGE GAINSBOURG EXPERIENCE"
CD LA LUNE ROUSSE LC09721
フランスでのリリース:2011年1月

 
(↓「ショッフ、マルセル!」ー ザ・セルジュ・ゲンズブール・エクスペリエンス「枯葉に寄せて」)

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