2011年2月16日水曜日

東欧には限りがない,とヨム公は言った。



YOM & THE WONDER RABBIS "WITH LOVE"
ヨム & ザ・ワンダー・ラバイス『愛を込めて』


 ザ・ニュー・キング・オブ・クレズマー・クラリネット,クレズマー・クラリネットの新王を僭称するヨム公に,2月18日(これを書いている時点で明後日)インタヴューすることになりました。その下調べをしているうちに,以下のプレス用資料に掲載されたインタヴューを見つけました。たいへん面白いので,(ラフですが)和訳してみました。

一種の門戸開放という観点からこの『愛を込めて』のプロジェクトは生まれた。これまでクレズマーはその進化のために常に新しい国を必要としていたが,われらがクラリネット奏者はそれを東ヨーロッパに求めたのだった。

 僕はこのアルバムを僕の東ヨーロッパ音楽観を音楽で地図化したもののように考えている。僕にとってこのアルバムは「クレズマー外音楽」探求が大きな軸になっていて,それはバルカン,トルコ,ルーマニアの方向に向かわせている。僕はこれまでよりもさらにクラリネットの修練を行ったが,そのやり方はこれまでと全く異なっている。いつまでも同じクレズマーの主題や音階に固執する代わりに,僕はあえてルーマニアやトルコやブルガリアの演奏スタイルを取ることにした...。僕は音質と装飾音とメロディーラインの探求に極力時間を費やし,その結果自分の和声に対する考え方を根本的に改めた。そして僕の仕事の課題というのは際限なく拡大し,東ヨーロッパはユダヤ的であるかないかに関わらず無限であると悟ったのである。

 その青春時代からヨムの音楽的無意識領域を最も親密なものとして支配していたものと,この新たに加わった国々の文化は,今日まで宴の音楽として混じることを許されずにブツブツ音を立てていたのだった。それに加えて,彼はモグワイ,クラフトワーク,イーノ,ブリストルのトリップ・ホップについて夢中になって語るのである。

 僕はモグワイとドゥー・メイク・セイ・シンクのポストロックが大好きだし,クラフトワークは全アルバムを持っている。ブライアン・イーノは天才だ!それからマッシヴ・アタック,トリッキー,ポーティスヘッドも !!!  レイディオヘッドとシガー・ロスの名前も出すべきだ。まさしくこれらの影響がすべてこのアルバムにある。人はその影響を多少なりともはっきりした形で見てとるだろうが,しかしながら僕はいかなる時でも決められた方向を見失うことはなかったし,いかなる時でも広い意味での東欧音楽への僕の愛情がないがしろにされることはなかった。それは僕のすべての音楽の土台であり,極めて多様な影響によって補われているのだ。

 この音楽宇宙は多くをザ・ワンダー・ラバイスにも負っている。リーダーであるヨムの溢れ出るエネルギーを中央にもってきて,うまく引き出す役目を果たしているのだから。

 マニュエル・ペスキン(キーボード)とシルヴァン・ダニエル(ベース)は,以前から最も僕が共同で仕事したいと思っていたミュージシャンたちだった。マニュエルは膨大な音楽知識があり,完璧な耳を持っている。シルヴァンはポップ,ロック,ソウルといった音楽に関する知恵の井戸であるだけでなく,サウンドとプロデュースに関しても造詣が深い。セバスチアン・レテは超テクのドラマーであり,ワールドミュージックの博識者だ。コンサートではエミリアノ・チュリがドラムスを担当するが,彼はよりロック的なドラミングを展開する。これらの素晴らしい仲間のおかげで,僕は真にバンドの音を追求することができたし,あらゆる影響を組み合わせてそれらを超越することができたんだ。

 この爆発性のカクテルは必ずや安っぽい純血主義者たちを苛立たせるだろうが,ヨムは純血性と関係するすべてのものを嫌悪しているから気にすることはない。歴史は彼が正しいことを証明するだろう。クレズマー音楽を背負い込んだ歴史的バックグラウンドはここでも忘れられておらず,イラストレーターのピエール・ヴァン・オーヴ描くCDのジャケットアートでも既に明らかだろう。

 アメリカン・コミックスに造詣の深いピエールは,このジャケット制作にうってつけの人物だった。これのジャケットはこのアルバムの意図に近いポップな面を強調する。僕は長い間第二次大戦中にユダヤ人を救済した人を指す「ジュスト(正義の人)」という意味について考えていた。歴史上の混乱した時期に,人間の善意に従ってちょっとした単純なことをした人が,突然にしてスーパーヒーローになってしまう。この理由において,僕はクラリネットを使って愛を世界にばらまく正義の使者を構想したのだ。このことは同時に「スーパーマン」のユダヤ人作者たちへの目配せであり,「スーパーマン」は最初ヒトラーを打ち負かすために構想されたのだった。その上言わせてもらえば,世界がこのように全面的に落ち込んでしまっている時に,誰がスーパーヒーローになることを夢見ずにいられるだろうか?!

 これらすべての賢明な弁明が証明するように,たとえこの新アルバムでヨムがコミックを演じていようが,彼はますますもって重大で謹厳なアーチストとして評価されるはずである。

(インタヴュー:セバスチアン・モージュ。2010年12月26日)


 どうです,面白いでしょう? 私としてはこれより面白いことを聞かないといけない,というプレッシャーを感じておりますが,正義の人への向風インタヴューは「ラティーナ」4月号に掲載予定です。乞うご期待。

<<< トラックリスト >>>
1.  チェルノブイリ・ピクニック
2. コンスタンティノープル高速道路
3. ランドスケープ 1
4. ザ・ワンダー・ラバイス
5. 世界を救うなんて朝飯前
6. 赤きドナウのほとり
7. キリング・ア・ジプシー
8. ランドスケープ 2
9. ジ・アライヴァル
10. スーパーマンへのカディッシュ(追悼祈)
11. 愛を込めて
12. ワンス・アポン・ナ・タイム

YOM & THE WONDER RABBAIS "WITH LOVE"
BUDA MUSIC CD 860206
フランスでのリリース : 2011年3月18日


(↓2011年1月20日,パリ,リュック・デ・ロンバールでのヨム&ザ・ワンダー・ラバイスのライヴ)

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