2010年12月28日火曜日

ポロさんの甥っ子の熱いカリビアン・ジャズ



GILLES ROSINE "MADIN'EXTENSION"
ジル・ロジーヌ『マディン・エクスタンシオン』


 1970年マルチニック生まれのピアニスト,ジル・ロジーヌは、マラヴォワのリーダー/ピアニストだった故ポロ・ロジーヌ(1948-1993)の甥です。8歳でピアノを始め、90年代初めにパリの音楽師範学校およびパリ第4大学(ソルボンヌ)で音楽を学び,そのパリ滞在中にシューヴァル・ブワのデデ・サン・プリ、コンパのジャン=ミッシェル・カブリモル(&マフィア)などのツアーにピアニストとして参加、1994年にはパリのクラブ、プティ・トポルタンで開かれた第一回めの「ビギン・ジャズ・フェスティヴァル」にジルが結成したカリビアン・ジャズ・トリオで出場し、アラン・ジャン=マリーやマリオ・カノンジュと看板を分けたのでした。
 95年にマルチニックに帰島。フォール・ド・フランスのサン・ジェイムス・クラブを根城に、ドラムスのジョゼ・ゼビナ、ベースのジャン=マルク・アルビシー(マラヴォワのベーシスト)、コントラバス/パーカッションのアレックス・ベルナール(ファル・フレットのベルナール三兄弟のひとり)等と組んだコンボで、本格的なカリビアン・ジャズ・アーチストとして名を成していきます。
 2003年に自主プロデュースでファーストアルバム『ペイ・メレ(Pays Mêlés)』(「混ざった国」という象徴的な名前ですが、これはジルが生まれ育ったラマンタン町の地区の名前だそう)を発表。これは20人ほどのミュージシャンとの共演で作ったビギン・アルバムで、アレックス・ベルナール、クリスチアン・ド・ネグリとマノ・セゼール(共にマラヴォワのヴァイオリン奏者)、ラルフ・タマールとトニー・シャスール(マラヴォワの歴代のヴォーカリスト)が参加し、2004年に同島の著作権協会(SACEM)レコード賞の新人賞を受けています。
 2006年、イビスキュス・レコードとの共同プロデュースでセカンドアルバム『シマン・トラセ(Chimin Tracé)』(「道筋」「道の跡」)を発表。これも前作同様、同島の多くのミュージシャンの参加で制作され、新らたにエリック・ボヌール(ギター)、ニコル・ベルナール(ヴァイブラフォン)、ダニエル・ルネ=コライユ(ヴォーカル)などの参加も得て、ビギンだけでなく、ベレール、シューヴァル・ブワ、マズルカ、カドリルなどマルチニックの伝統音楽全体にレンジを拡げ、ジルの新しい解釈によるマルチニック音楽の新ハーモニー構築が試みられています。おそらく伯父ポロさんのマラヴォワでの試みを継ぐようなかたちで。
 その伯父へのオマージュは2007年、トニー・シャスールがその機会に結成したビッグバンドを、ジル・ロジーヌが編曲指揮するというかたちで催されたマルチニック島とグアドループ島でそれぞれ1回ずつ開かれたポロ・ロジーヌ15周忌記念コンサートと、そのライヴアルバム『15 ANS DEJA - GILLES ET TONY RENDENT HOMMAGE A PAULO ROSINE』となって、往年のポロさんのファンたちを喜ばせました。
 
 さて2010年のアルバムです。歌なし。『マディン・エクスタンシオン(Madin' Extension)』と題されています。マディニナ(Madinina)、マディアナ(Madiana)、イル・オ・フルール(花の島)などとも別称された島マルチニックの音楽を拡張(エクスタンシオン)して広範囲な視野から見るとどうなるか。答えは「カリビアン・ジャズ」です。ベルナール父子(アレックス = コントラバス、ギヨーム = ドラムス)、ジャン=マルク・アルビシー(ベース)、ジョゼ・ゼビナ(ドラムス)、ミッキー・テレフ(パーカッション)を中核メンバーとした、ピアノ・トリオ、またはピアノ・トリオ+ワン(パーカッション)の演奏を軸に、3曲では金管3本(トランペット、トロンボーン、サックス)を加えた厚いアンサンブルで、おおむねかなりホットなプレイを展開します。私たちがとかく思いがちな、ビギン・ジャズのクールさとエレガントさとはかなり事情が違っています。これは非常に熱いジャズです。パーカッシヴで、超絶ベースがブイブイうなり、ジルのピアノも時おり南海の荒波のように吠えます。そして伯父さんのようによく「歌う」ピアノの抒情性も。疾風怒濤のロマンティスムとも聞こえます。
 11曲のうち9曲がジルの作曲。2曲が伯父ポロ・ロジーヌの曲で、2曲ともジルのソロ・ピアノ録音でそのリスペクトがじっくりと伝わってきます。
 アラン・ジャン=マリー、マリノ・カノンジュという大先輩のビギン・ピアノ・ジャズのルートから、全く新しい方向に大きく踏み出したマルチニック・ジャズのアルバムでしょう。その作曲家としての才能を、カリビアン・ジャズのピアノの魔術師ゴンサロ・ルバルカバが、このアルバムのブックレット中の跋文で絶賛しています。風の吹く島マディニナの風雲児ピアニストの登場です。

<<< トラックリスト >>>
1. BELYA POU DEMEN (Gilles Rosine)
2. LALOU (Gilles Rosine)
3. YON' A LOT (Gilles Rosine)
4. ARC-EN-CIEL (Gilles Rosine)
5. CONTRETEMPS (Paulo Rosine)
6. SWEET BIGUINE (Gilles Rosine)
7. EXTENSION (Gilles Rosine)
8. ROMANZA (Gilles Rosine)
9. WA TIRE'Y (Gilles Rosine)
10. MATINIK JODI (Gilles Rosine)
11. ANTOINISE (Paulo Rosine)

GILLES ROSINE "MADIN' EXTENSION"
CD GILLES ROSINE/POKER PRODUCTION 001009
フランスでのリリース:2011年1月24日


(↓)テレビARTE JAZZ LIVEで放映された、マルチニック・ジャズ・フェスティヴァルでのジル・ロジーヌ。曲目"ROMANZA"
ジル・ロジーヌ(ピアノ)、アレックス・ベルナール(コントラバス)、ギヨーム・ベルナール(ドラムス)、ミッキー・テレフ(パーカッション)

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