2010年5月4日火曜日

敗者,敗者,ecoute-moi,敗者,敗者,t'en vas pas.



THE BEAUTIFUL LOSERS "NOBODY KNOWS THE HEAVEN"
ザ・ビューティフル・ルーザーズ『ノーバディ・ノウズ・ザ・ヘヴン』


 どこにでもありそうなバンド名です。2008年に公開されたアート・ムーヴメントのドキュメンタリー映画のタイトルにもありました。「美しき敗者」とは潔さを重んじる日本的情緒と合致するんでしょうね,日本語で「美しき敗者」と検索すると7万4千件出てきました。しかし,このバンドの名の出典はカナダの小説家/シンガーソングライターであるレオナード・コーエンの1966年の小説『ビューティフル・ルーザーズ』だそうです。
 バンドと言ってもデュオです。ベースとバッキングヴォーカルにクリストフ・ジャック。彼はこのアルバムの7年後に「クリストフ・J」という名義で"SONS OF WATERLOO"というアルバムを発表して,そこそこの成功を収めます(その後シーンから退いて,英仏語の会議通訳の仕事をして今日に至ります)。もうひとりはギターとリードヴォーカル,そして全曲の作詞作曲をしているジェイ・アランスキーです。のちにリオの「バナナ・スプリット」やアラン・シャンフォールとのコラボレーション,90年代にはジル・カプランのピグマリオンとして,主にヴァリエテ・ポップの世界で名を成しますが,変名でア・レミニッセント・ドライヴを名乗り,エレクトロニック・ミュージックでも知られるアーチストになります。
 が,時は1975年。そういうメジャーシーンとは遠いところにいた20歳のジェイ・アランスキーの「若気の至り」の録音です。田舎家に4日間眠らずに籠っての4トラック録音。ローファイという言葉がなかった時代のローファイ。その2年後に亡くなるマーク・ボラン(1947-1977)をヒーローとしていた時期のアランスキーが,Tレックス,ロキシー・ミュージック,ヴェルヴェット・アンダーグラウンド,トッド・ラングレン,シド・バレットなどが作っていた「退廃」のアトモスフィアを自分なりに創ろうとするわけです。フランス人ですから,ロートレアモンやボードレールにも色濃く影響を受けて。
 4日間眠らないのは,薬物を使って,という意味だと思っていいでしょう。アコースティックながら,サイケデリックでデカダンで,人工の楽園願望がサウンドにびしびし盛り込まれて,やや痛々しい時もあります。これは私と同世代のアーチストによる,若き日の思いっきり手を伸ばして無理矢理引き寄せた退廃のようで,私的には泣きたくなるような美しさがあります。真剣に嫉妬しています。


<<< トラックリスト >>>
1. WELCOME
2. OXFORD 1825
3. SPANISH WOMAN
4. YOU ARE FREE
5. NOBODY KNOWS THE HEAVEN
6. RENDEZ-VOUS
7. I WONDER WHY YOU CRY TODAY
8. ALL IS GONE
9. LIKE AN OLD GENERAL
10. AFRICAN QUEEN
11. SOMETHING TO DO
12. THE SHINING CAR
13. SUICIDE/INSIDE OUT
14. ALL IS GOING SO SLOW
15. YEAH, YEAH, YEAH!
16. THERE IS A BLOW
17.(BONUS TRACK) NOBODY KNOWS THE HEAVEN

BEAUTIFUL LOSERS "NOBODY KNOWS THE HEAVEN"
CD (REISSUE) MARTYRS OF POP / LION622CD(MOP002)
フランスでのリリース 2010年3月

the beautiful losers - nobody knows the heaven from the beautiful losers on Vimeo.



PS 1 (5月5日)
CDについている30ページのブックレットに,レーベルMARTYRS OF POPのジャン=エマニュエル・デュボワによる,ジェイ・アランスキーとクリストフ・Jへのロングインタヴューが載っています(英語&仏語)。ジェイ・アランスキーの証言はあの頃の空気(プログレとメタルがロックの主流で,フランスは10年遅れていて云々)をよく伝えていて,それに逆らって自主制作でこういう誇り高い(と言うよりもうぬぼれ高い)作品ができたことを,若き日の奇跡のように語っています。LP盤はアランスキーが作ったSILK RECORDS(マーク・ボラン"Chariots of Silk"からインスパイアされたレーベル名)から発表され,パリのレコードショップ数軒で400〜500枚売れたそうです。その1枚を買ったのがベルギー人,ハーゲン・ディルクス(のちの名をジャック・デュヴァル)で,ディルクスがアランスキーにザ・ビューティフル・ルーザーズへのファンレターを送ったのがきっかけで,二人は出会い,意気投合して作詞作曲コンビとなってマリー=フランスに曲を提供,次いでリオのために「バナナ・スプリット」を書いたのです。
 

2 件のコメント:

かっち。 さんのコメント...

敗者がアイシャになるなんて。
おフレンチにもほどがある?

むしろ歯医者の駄洒落かと思ったのに。

さなえもん さんのコメント...

うわっ!すごい好きなタイプの音です。
Galaxie 500っぽい。いいなあ、このバンド。