2009年9月29日火曜日

He's a rainbow.

FRANCOIS & THE ATLAS MOUNTAINS "PLAINE INONDABLE"
フランソワ & ジ・アトラス・マウンテンズ『洪水に襲われやすい平原』
ランソワ・マリーは2003年からイングランド西部の港町ブリストルに住んでいて,その地の音楽シーンに溶け込んで活動しているフレンチーです。出身地はフランス西部の港町ラ・ロッシェルに近いサントで,ブリストルの前はラ・ロッシェルに住んでいました。この緯度を北に移しただけのような,フランス西海岸からイングランド西海岸への移住はどんな意味があったのでしょうか? 9月25日のレ・ザンロキュプティーブル誌のウェブ版のinrocks.comに,フランソワの紹介記事があり,それは「トリップホップの揺籃ブリストル」という言葉から始まります。なにしろマッシヴ・アタックとポーティスヘッドの町ですから。90年代からロンドンとは全く違った音楽的アイデンティティーを持つに至った新しいメロマヌ(音楽狂)の町,というイメージです。実験的で,何にでも手を出したがる,不定形な音楽志向を持った独習のマルチインストルメンタリスト,フランソワ君はこの町にすぐに馴染んでしまったのですね。  それに対してラ・ロッシェル(有名はフランコフォリー・フェスティヴァルがある,これまたりっぱなメロマヌの町のはず)は,フランソワ君にはそのアンビエントに親近性を持つことができなかったのです。レ・ザンロックのインタヴューによると当時のラ・ロッシェルの音楽傾向は「シャンソン」か「ファンク」かだったそうです。早くから室内実験のようだった彼の音楽は,それに合う環境を求めて北に向かったというわけですね。  2003年以来自主制作で何枚かCD作品を出していたようですが,このボルドーの小さなレーベル TALITRES RECORDSからこの9月に出た本作『プレーヌ・イノンダブル』が,フランス国営の音楽FM局FIPなどに注目され,多くの人に知られるようになりました。  
フランソワの音楽は,そのヴィデオ・クリップやジャケットアートなどで見えるように,たいへん水彩画的です。透明度が高く,浮遊感があり,流動的です。その水が多めのパレットで色彩豊かに描かれる音楽です。ギターやピアノや管楽器や弦楽器と,さまざまな効果音(ドアの音,マッチ箱,ウォータードラム...),そして人間の音声も,すべてが水で薄められた水彩絵の具のように画用紙の上に流し出されるような感じです。雨が降ればすべて流れてしまいそうです。この固定されない儚さがフランソワの音楽の魅力だと思います。  
このフランス語と英語で歌われるメランコリックでノスタルジックな音楽は,そのインタヴューによるとある種「ふるさとは遠きにありて思ふもの」というファクターもあります。音楽的に自分に合った環境に身をおいて,サティー的なフランスと印象派絵画的なフランスに想いを馳せているような望郷感ですね。それはヒップホップを哀愁の領域に引っ張り込んでしまったブリストルでなければ得られなかった感覚かもしれません。  アマンダ・リアーのようなアンドロギュノス的なヴォーカルが憂愁を際立てます。スペインのアルベルト・プラ,米国のマーキュリー・レヴ,アイスランドのシガー・ロスなどを初めて聞いた時の感覚が蘇ります。

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1. FRIENDS
2. BE WATER (JE SUIS DE L'EAU)
3. WONDER
4. MOITIEE
5. REMIND
6. DO YOU DO
7. OTAGES
8. NIGHTS DAYS
9. YEARS OF RAIN
10. PIC-NIC


FRANCOIS & THE ATLAS MOUNTAINS "PLAINE INONDABLE"
CD TALIRES RECORDS CDTAL-049
フランスでのリリース 2009年9月14日


(↓) "BE WATER (JE SUIS DE L'EAU")のオフィシャルヴィデオクリップ


2 件のコメント:

かっち。 さんのコメント...

素晴らしいです。
ブリストルだからサラ・レーベルっぽいのかなとか、
水彩画の様とはヴィニ・レイリー的なのかとか、
思いましたが、予想外のサウンドでした。

僕はフライング・リザーズとパスカル・コムラードを思い出しました。

さなえもん さんのコメント...

改めて、本当にいい音楽です。
ブリストルは移民が多い街と聞いたことがあります。
あとはザ・ポップ・グループ。
昨年、マーク・スチュワートは来日していました。
それぐらいしか知りません。
でもこの音楽が新しい扉を開いてくれたら
いいですね。
フレンチフレンチではない、なんとも可愛らしく
懐かしい音。久しぶりに心にピクンときました。