2009年6月27日土曜日

RAI had a dream



RIM'K "MAGHREB UNITED"
リムカ『マグレブ・ユナイテッド』


 安易なシンパシーは抱かないようにしています。目つきの悪いあんちゃんたちが集まってやっていることに関しては警戒心が先に立ちます。それはイタリアのあんちゃんたちであろうが、コルシカであろうが、マルセイユであろうが、川崎であろうが、ロンドンであろうが...です。バッド・ボーイズは人畜無害であるわけがないし、アグレッシヴであることがひとつの存在理由でありましょう。では何に対してアグレッシヴか、というと、具体的な対立グループと漠然とした対立グループに対してです。前者の方はジェット団対シャーク団(「ウェストサイド・ストーリー」)みたいなもんですが、後者の方は往々にして特定の人種だったり国籍だったり社会階層だったり宗教だったりイデオロギーだったりして、その憎悪の向け方では私は絶対に支持しないというものが少なくありません。
 90年頃、フランスでラップやる子たちは「システム」という言葉をよく使っていました。システムとは世の中を制する仕組みであり、その仕組みからはじき出された郊外の子たちが「理由あって」反抗するものでした。それは教育のシステムであり、資本主義のシステムであり、身分階層のシステムであり、人種や宗教や移民を差別するシステムでした。この子たちは拳を振り上げて、これらのシステムを呪い、憎悪するライムをビート化していたのでした。郊外の貧困や惨状を作ったのは何か = それは「システム」である、と言う時、私はこの反抗は正しいと思ったのです。このシステムという総括名称に飽き足らず、具体的な各論に入り、それが「警察」になったり、特定の政治家になったりすると、アグレッシヴさが増大するわけですが、システムに取り込まれない別の経済システムを作って抜け出そうとする子たちもいます。Tシャツ屋/ストリート・ファッション産業がその成功例です。郊外ヒップホップは音楽/ダンス/ファッションを軸とした総合カルチャーとして経済的に自立できるというポジティヴな可能性もあるわけです。
 前置きが長くなりました。ここに紹介するリムカ(Rim'K)は、カリム(Karim)という呼び名のベルラン(日本のモダンジャズ→ダンモと同じような逆さ読み表現)ですが、本名をアブデルカリム・ブラハミ・ベナラと言い、アルジェリア/カビリア出身の両親の下に、1978年、パリの南郊外、ヴィトリー・シュル・セーヌに生まれています。1994年、16歳の時に、グアドループ島出身のAP、マリ出身のモコベの3人でハードコア・ラップ・バンド「113(サン・トレーズ)」を結成します。113とは彼らの住むヴィトリー・シュル・セーヌのシテ(低家賃高層集合住宅)のある通りの番地番号です。こういうはっきりした土地感覚というか、現在位置へのこだわりが、3人の出自の違いを越えたリアリティーです。レコードは1997年から出ていて、2000年にはヴィクトワール賞を獲得するほどのメジャーアーチストになります。パリを包囲する郊外の93県(セーヌ・サンドニ)にNTM,95県(ヴァル・ドワーズ)にミニステール・アメール,そして94県(ヴァル・ド・マルヌ)に113と並び称され,94県ラップの旗手となりますが,この94県の3つの地区,ヴィトリー・シュル・セーヌ,オルリー,ショワジー・ル・ロワのラッパーたち(113,ローフ,ケリー・ジェイムス,マニュ・ケー,ロッコ....)約15人が大同団結して,MAFIA K'1 FRYと名乗る集合体でも活動するようになります。
 リムカを筆頭に,同志のラッパーたちにはこの「団結」を重要なキーワードにする者が少なくありません。対立バンドとの諍いがつきもののこのバッド・ボーイズの世界で,(口先だけの場合もあると思いますが),彼らは団結を呼びかけます。L'UNION FAIT LA FORCE。団結は力なり。そういうの,まだまともに信じてるの? - と数年前まではみんな懐疑的だったわけです。特に郊外においては。暴動起こしたって何も変わらない,選挙に行ったって何も変わらない,という強烈な虚脱感が支配的でした。ところが,数ヶ月前に何かが変わったのです。フランス全土の温めの反応とはおおきく違って,郊外はこの事件に激しく揺れ動いたのです。それはオバマ大統領の誕生です。あの夜郊外では花火が上がり,若い衆は通りに出て踊り狂い,夥しい数のオバマTシャツが売れました。
 やればできる,Yes we can,そういうポジティヴな気運が郊外に立ちのぼります。笑ってしまってもいいんですが,リムカはそれにまんまと乗じて,こう宣言します : 万国のマグレブ人団結せよ。オール・マグレビンズ・オブ・ザ・ワールド,ビー・ユナイテッド!
 プロジェクト『マグレブ・ユナイテッド』は,ヴィトリー・シュル・セーヌのカビリア系二世のラッパー,リムカの小さな頭から生れ,どんどん膨張して,ラップ,ヒップホップ,R&B,ライ,ライ&Bなどの多分野のアーチストたちを集結させ,コメディアンのジャメル・ドブーズや,しばらく音沙汰のなかったNO.1女性ラッパーのディアムスといったVIPも参加する豪華版になりました。
 マグレブとは地理的には北アフリカの日沈む国々のことで,マグレブ3国と言えばアルジェリア,モロッコ,チュニジアのことです。このアルバムで繰り返して連呼される国名もこの3国で,共にフランスによる植民地統治の過去があり,独立後も労働力としてフランスに多くの移民を送り込んでいる3国です。「大マグレブ圏」はリビアとモーリタニアも含みますが,このアルバムでは一切触れられていません。またこのアルバムはアル・モロ・チュ3国を統合してひとつの大きな国にしようと訴えているのでもありません。
 リムカ・ハド・ア・ドリーム。「マグレブ」という架空のネーションは,彼らの現在位置で可能になるのです。北アフリカの里(ブレッド)を実際のルーツにする人たち,または心のルーツにする人たちが,自分を「アルジェリア系」「モロッコ系」「チュニジア系」と言うことなく「マグレブ人」と名乗るだけで,ひとつのネーションはできあがってしまうではないか,と考えたわけです。
 韓国人や中国人に間違えられると猛烈に怒る日本人がいるように,マグレブ3国も国民感情的には友好的でない部分もあるそうです。それがブレッドを離れたフランスの大都市郊外のようなところでは,バッド・ボーイズの小グループとなって出身ルーツを理由にひんぱんに諍いや抗争を起こしています。
 リムカ・ハド・ア・ドリーム。兄弟たちよ,ここに「マグレブ」というひとつのネーションを作ろう。アルジェリア系,モロッコ系,チュニジア系,いがみ合うのをやめて,団結しよう。それだけでなく,アフリカ系,カリブ系,インド系,アジア系も含めて,ここに俺たちのポジティヴでリスペクタブルなネーションを築こう。名付けて「マグレブ・ユナイテッド」。これを支持するんだったら,とりあえず俺のウェブショップでTシャツを買ってくれ,というのがこのアルバムの趣旨です。
 この世界ではすごいメンツの集合です。前述のジャメル・ドブーズ,ディアムスを初めとして,ラップ&R&Bからは113,ケリー・ジェイムス,セフュー,ケンザ・ファラー,チュニジアノ,ソプラノ,サナ...,ライ&ライ&Bからはゼウアニア,モアメド・ラミン,シェバ・マリア,シェブ・ビラル...。歌詞カードがついてなくて,郊外フランス語と多く北アフリカ語も混じっているので,感じしかわからないものばかりですが,マジの人,冗談の人,いろいろです。ひさしぶりに聞いたメラニー・MC・ディアムスは,情念ぶちまけ調ではなくて抑え気味の多重録音かヴォイス・モデュレーターでの重ね声ラッピンでしたが,それでもこの人のエモーションの抑揚というのは鳥肌立ちますね。早く帰ってきてほしいものです。ディアムスのダチのアメル・ベントはこのアルバムではちょっと異色のしっとりしたマイナーバラードで,心のルーツ「私のブレッド Mon Bled」を遠い視線で哀愁たっぷりに歌います。その他,ここが世界の中心みたいなマグレブ中華思想や,マグレブが抱え込んだありとあらゆる問題の羅列やら,スタイルはさまざまです。さまざまを超えて,マグレブ・ユナイテッド!とリムカは繰り返して介入します。本気なんでしょうか,これ?

<<< トラックリスト >>>
1. BOUGA "INTRO"
2. 113 + JAMEL DEBBOUZE + AWA IMANI "CELEBRATION"
3. RIM'K + ZAHOUANIA "LA ROUTE DU SOLEIL"
4. KERY JAMES + MOHAMED LAMINE "TOUS CONTRE NOUS-MEMES"
5. RIM'K + NOUROU + MOHAMED ALLAOUA "UNITED"
6. RIM'K + DRY + SEFYU + REDA TALIANI "LA CRISE"
7. RIM'K + KENZA FARAH "AU-DELA DES APPARENCES"
8. RIM'K + DIAM'S "DICTON DU BLED"
9. OGB + KAMELANCIEN + MOHAMED LAMINE + SANA "POUR ELLES"
10. RIM'K + KADER JAPONAIS + SELIM DU 9.4. "HARRAGA"
11. AMEL BENT "MON BLED"
12. MEDINE + CHEBA MARIA "DIVISION D'HONNEUR"
13. TUNISIANO + CHEB BILAL "1001 PROBLEMES"
14. RIM'K + NESSBEAL "CHEZ TOI C'EST CHEZ MOI"
15. RIM'K + CHEBA MARIA + RR "LE JOUR J"
16. SOPRANO + LA SWIJA "MARSEILLE UNITED"
17. 113 + REDA TALLIANI "CELEBRATION REMIX"

RIM'K PRESENTE MAGHREB UNITED
SONY MUSIC CD 88697546252
フランスでのリリース 2009年6月29日



↓113 + JAMEL DEBBOUZE + AWA IMANI "CELEBRATION"のヴィデオクリップ



 
 

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