2009年1月18日日曜日

「ファイナル・アンサー」という世界共通語



 『スラムドッグ・ミリオネア』2007年イギリス映画
 "SLUMDOG MILLIONAIRE" ダニー・ボイル監督作品

 フランス封切2009年1月14日

 3週続けて日曜日の朝は娘と映画でした。ニコル・キッドマンのポスターに魅せられて『オーストラリア』(日本公開2月28日)に始まって、先週は娘のたっての希望で『トワイライト』(日本公開4月4日)でした。で、今週はこの『スラムドッグ・ミリオネア』(日本公開4月)でしたが、前の2本は娘の読解力を考慮して仏語吹き替え版で見ていたのに、今日のはオリジナル版(英語/ヒンズー語)の仏語字幕つきでの鑑賞でした。久しぶりの字幕映画だったのに、字幕が白字で、画面が白くなったら字幕が何も読めないという箇所が何度かあり、悲しい思いをしました。
 世界50カ国のヴァージョンがあるというテレビのクイズ番組 Who wants be a millionaire?の発祥の地は英国だそうです。フランスではTF1が2000年から放送を開始し,タイトルは Qui veut gagner des millions ?と言い,司会のジャン=ピエール・フーコーが解答者に「それはファイナル・アンサーですか?」と聞くのに,こういうフランス語で言います。

Est-ce que c'est votre dernier mot?

 強い表現ですね。「あなたの最後の言葉ですか?」と聞くわけです。サスペンスが最高潮に達します。生と死をかけたような緊張の瞬間です。日本版のみのもんた司会のクイズ$ミリオネアは見たことがありませんが,似たようなもんでしょう。このように英国やフランスや日本だけでなく,世界中の人々がテレビの前でファイナル・アンサーの緊張を分かち合っているのです。
 この映画はそのインド版の Who wants be a millionaire?に15問正解して,最高賞金2千万ルーピを手にすることになる,ボンベイ(ムンバイ)の貧民窟出身の青年ジャマルの物語です。この現在は電信会社のお茶汲みボーイをしている無学な青年が,これらの難問を解けるわけがない,というのがこのインド版ジャン=ピエール・フーコーあるいはインド版みのもんたの露骨な侮蔑の態度です。この司会者氏は番組中に公然とこの青年に差別的な表現を繰り返し,嘲笑し,挑発し,この身分知らずを一刻も早くこの番組から引きずり下ろそうとします。しかし,ジャマルはすべての問題に対して正解を知っているのです。14問めまで正解を出して,賞金が1千万ルーピになったところで,その日の生放送が終わってしまいます。ここで司会者氏の侮蔑と怒りは頂点に達し,警察に手を回して,ジャマルを逮捕させ,青年がインチキで全正解を知ったことを拷問で自白させようとします。
 映画は警察の取り調べ室の拷問シーンから始まります。水責めや電気ショックもあります。しかし青年ジャマルは自白しません。どんなインチキをしておまえは正解を得たのか,というのが取調官が強要する質問です。これには答えようがないのです。なぜならこれまでジャマルが生きてきたことのすべての記憶が,14問全部の正解を与えてくれたのです。
 映画はボンベイのスラム街に生を受けた少年とその兄と,幼い日に出会って兄弟と行動を共にするようになった孤児の少女ラティカの3人が,いかにして過酷なサバイバル競争を生き抜いてきたかを描きます。イスラム過激派によるヒンドゥー教徒住民への襲撃や,食い扶持のない子供たちを集めてきて盗賊団を組織する地元マフィアなど,リアルな現実が随所に現れます。学校など行かず,廃品あさりや物乞いや万引きで生きなければならない子供たちです。大道歌手は盲の方が稼ぎが多いという理由で,盗賊ボスが歌のうまい少年の目をつぶしてしまうというショッキングなシーンもあります。この現実の中でジャマルはすべての答えを知ってしまったというのが,この映画のストーリーです。
 たぶん原作本がすごくいいのでしょう。原作はインド人作家ヴィカス・スワラップ(Vikas Swarup)の小説『ある不運なインド人が億万長者になるまでの信じがたい冒険(仏語ではLes Fabuleuses aventures d'un Indien malchanceux qui devient milliardaire)』で,これを『フル・モンティ』の脚本家サイモン・ビューフォイがシナリオ化し,『トレインスポッティング』のトニー・ボイル監督が映画化した,という悪いわけがない2時間映画。地獄から天国までの最短旅行のようです。
 全スラム街のみならず,全インドの家庭,全インドの飲食店,全インドの家電ショップが,このクイズ番組をテレビに映し出し,固唾を飲んで15問めのファイナル・アンサーを待っているところなどは,サッカーW杯決勝なんざちいせえちいせえ,といった趣きです。最後は私も隣にいた娘と抱き合って喜びましたから。

『スラムドッグ・ミリオネア』フランスでの予告編


 

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