2008年10月26日日曜日

ゲンズ、ゲンズ、ゲンズ・ワールド



 今日から冬時間でして。
 昨日シテ・ド・ラ・ミュージックで開かれているエキスポ『ゲンズブール2008』(10月21日〜3月1日)に行ってきました。午後2時半頃着いて、行列待ちが1時間ほどでした。土曜日、しかも子供たちの秋休み(ヴァカンス・ド・トゥーサン)期間中なので、ゲンズブールの熱心なファンと言うよりは、家族連れやらフツーっぽい人たちの方が多く、チケット買い待ちの行列の私たちの前と後ろは全然ゲンズブールっぽくないおじさん/おばさんばかりでした。
 チケットは買えても、その後でまた入場者数制限でまた20分ほど待たされました。会場の入り口への通り道がハルモニア・ムンディのショップで、ゲンズブール関係の書籍、CD、レコード(LPが多く復刻再発されてます)は豊富に置いてあって、みんなたくさん買っているので、ちょっとびっくりしました。ミュージアム・ショップというのはどこでも購買力をそそる何かがありますよね。世界恐慌とは縁のない世界かもしれません。
 さて会場に入りますと、メイン展示場はゲンズブールの年代別の変遷を、壁には写真+時事ドキュメント、柱には映像(ヴィデオ)と画像というやり方で展示されていました。リュシアン・ギンズブルグからセルジュ・ゲンズブールになり、ゲンズブールから影の分身ガンズバールがあって、画家、バー・ピアニスト、シャンソニエ、自作自演歌手、映画俳優、映画監督、性倒錯、ロリータ偏愛、詩人、作家、CM作家、魅惑のクルーナー、ロッカー、ラスタマン、美人歌手プロデューサー、テレビ挑発人、エレクトロ・ファンクマン、近親性愛者、病人...., まあまあマルチな位相を持った人物でしたが、それをこの小さなスペースで全部見せようというのは、どだい無理な話です。特に壁に張ってあった小さい図版のドキュメントの数々は、エキスポ用に拡大するような工夫がどうしてできなかったのか、とても不満です。見づらく判別しがたく、凝視するのにとても疲れました。これらのドキュメントは、詰まるところ、あまり珍しいものではなくて、たくさん出版された伝記本や写真集などで多くの人たちは既知(デジャ・ヴュ)のものばかりでしょう。
 「キャベツ頭の男 L'homme à la tête de chou」の彫刻や、パウル・クレーの「星からの悪い知らせ」の原画、それからフランス国家「ラ・マルセイエーズ」の作者ルージェ・ド・リールの直筆の歌詞原本など、ゲンズブールに大きなインスピレーションを与えたものも陳列されています。
 ヴェルヌイユ通りにあったゲンズブール邸のプライヴェート・コレクション(ワッペン、腕章、ピストル、弾薬...)も、娘シャルロットの許可で陳列されていましたが、私はこんなもんじゃないでしょうが、という印象があります。と言うのは、(こういう家族連れの入場者たちにはあまり見せられないもの、という主催者側の判断でしょうが)、ゲンズブールが蒐集していたエロティックなオブジェのコレクションが一切公開されていないんですね。それだけでなく、毒々しい趣味を持った倒錯のアーチストという部分がほとんど見えてこない展覧会で、私は少なからず失望しました。
 家族連れで見に行って、20世紀後半のフランスにはこんなにポップなアーチストがいたのだ、と再認識させるにはそれなりの意味を持ったエキスポかもしれません。しかし、このナルシスティックなアーチスト像は、こんな中途半端なエキスポでは、ダリにもコクトーにもウォーホルにもなれないような、テレビで良く見たヴァリエテ芸人ゲンズブール(+若干の延長)としてしか見れないような印象でした。残念です。

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