2008年8月12日火曜日

義を見てセザール



 ボイコットしているわけではありませんが,オリンピックは見ていません。テレビを見たり,ラジオ報道を聞いたりというのが,胃や心臓や頭にかなりしんどいように感じられるからです。サルコジはしばらくヴァカンスで静かにしていてほしいと願っていたのに,グルジア情勢で休暇を中断して出てきました。当地の定時ニュースでは,グルジアへのロシア侵攻よりもオリンピックが優先されます。ダライ・ラマ訪仏も小さいニュースです。
 パリは相変わらず冷夏で,ヴァカンスに出ずに働く人たちが多いのだろうか,地下鉄はいつも混んでいて,本を読むこともできないのです。こうしてこのまま冬になってしまうのでしょうか。まだ8月なのに雨や風のあとは道に落ち葉がたくさん見られ,日照時間は毎日3分ずつ減っています。

 パリ14区のフォンダシオン・カルティエ(カルティエ現代美術財団)に,セザールの回顧展を見に行きました。セザール・バルダッチーニ(1921-1998)は,マルセイユ生れ/イタリア移民の子で,後年のセザール賞(フランスの映画賞)のトロフィーでも知られている角柱状の圧縮金属塊(この彫刻シリーズを圧縮=コンプレッションと言う)で有名な彫刻家です。
 このコンプレッションのシリーズは自動車スクラップを四方から圧縮して直方体にしてしまう大型プレス機械を使って作られますが,60年代,自動車をはじめとする高度機械化社会をつぶしてみればこう見えるという衝撃のヴィジョンでした。
 そのコンプレッション期のあとで,巨大な親指やらゲンコツやら乳房やらの型取り拡大(高さ6メートルの親指など)のシリーズを制作します。親指は全部自分の親指の型取りで,その指紋は渦巻きではなく蹄状紋です。爪の部分に目鼻を描くと聖母像か観音様になりそうです。
 フォンダシオン・カルティエは建築家ジャン・ヌーヴェル作のガラス張りの空間で,このセザール展もジャン・ヌーヴェル自身が制作しているので,庭にど〜んと立っているこの親指なんか,この環境でなければこんなにはまって見えるものか,と思わせるほど,世にもありがたい現代美術です。
 20世紀って本当に終わってしまったんですね。

 
 

5 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

爺、お久しぶりです。
なんだか、私も同じ状況です。

オリンピックの開会式の日は
奇しくも「長崎の日」でした。
でもTVで長崎を特集したのは
NHKだけでたったの2時間ちょい。

グルジアのこと。
結局は石油がらみでアメリカVSロシアの
戦争なんですよね。
冷戦はまだまだ終わっていないのです。
愚かなことです。

匿名 さんのコメント...

訂正:長崎の日は翌日8月9日でした。
でも、長崎のことを特集するチャンネルは
NHKだけでした。

Pere Castor さんのコメント...

おひさしぶりぶりっ。
あなたが長崎のこと書くからつられて書くけど,8月3日(日)に仏独共同教養文化TVのアルテ(ARTE)で,カナダ+日本合作の映画『広島』(1996年。監督がロジャー・スポティスウッドと蔵原惟繕)を前・後編ノーカット放映したのね。蔵原惟繕(くらはらこれよし)は『キタキツネ物語』の監督ですね。
ルーズベルトが死んで新大統領になったトルーマンが,とにかく多くの自国兵士の戦死をなんとか食い止めないと,と悩んでいるところに開発中の新爆弾の話です。日本側は臣民の悲惨に心痛める昭和天皇(梅若猶彦という人が演じています。能楽の人ですか?)と,軍部徹底抗戦説を代弁する陸軍大将阿南惟幾(あなみこれちか。高橋孝治の怪演)に挟まれて,ソ連ロシアとの外交で逃げようとする鈴木貫太郎(松村達雄)の3者の堂々巡りで時間が過ぎていきます。
新爆弾の実験から広島投下まで,本当に短い時間なんですね。
私たち家族は終始息を飲んで見ていました。
タカコバー・ママは,この映画は日本の人たちはほとんど見ていないんじゃないか,と言いました。実際,著名映画監督・蔵原惟繕(故人)のインターネット上のバイオグラフィーをいろいろ見ても,この作品については何も触れられていないのでした。
原爆が落とされても徹底抗戦説を曲げない陸軍大臣阿南は,昭和天皇の無条件降伏と同時に割腹自殺をしますが,ここがあまり映画の中で山場になってしまうと,「広島」映画の意味が薄くなってしまいますよね。難しいところですが,俳優陣でやはり高橋孝治が群を抜いて存在感がありますから...。
爺はARTEを優秀なテレビ局として信頼しています。
↓(ARTE の番組紹介)
HIROSHIMA

匿名 さんのコメント...

フランスでこのような映画をゴールデンタイム
に観られること、羨ましいです。
この映画、観たことありません。
存在も知りませんでした。
幸いにも、長崎の日の数日前、NHKスペシャルで
ジョー・オダネルという元米海軍専属カメラマン
の特集をやっているのを観ました。
これは本当に心を動かされた番組です。

奇しくも、彼は原爆の日に亡くなっています。

内容はこんな感じです。
(以下NHKのHPからの概要)

今、1枚の写真が注目を集めている。
63年前、被爆直後の長崎で撮影されたもので、
亡くなった幼い弟を背負い 火葬場の前に立つ
「長崎の少年」と題された写真だ。
撮影したのはジョー・オダネル。去年8月9日、
地元テネシー州の病院で亡くなった。
米海軍専属カメラマンとして原爆投下後の
長崎・広島に入り、その破壊力や 人体への影響
などを記録するための写真を撮影する一方で、
軍に隠れ私用のカメラで400枚の写真を撮影した。
帰国後、被爆者の記憶に悩まされ、悲劇を忘れ去ろうと
全ての ネガを自宅屋根裏のトランクの中に45年間
封印してしまう。 しかし、自身も残留放射能の影響で
余命幾ばくもないと医師に告げられてから、
原爆の悲劇を訴え始めた。原爆投下の正当性を信じる
妻と娘は家を出ていき、 周囲からは非難の声が相次ぐ
など孤独の後世を生き、86年の生涯を閉じた。
死の1週間前、「長崎の写真は僕が伝えていく」と約束した
長男が今、 父の写真をネットで世界に向けて発信し始めている。
一人のアメリカ人写真家が、原爆の真実を伝えようと踏み
切った思いを、 残された写真と一枚一枚に添えられた
手記・残された音声テープからたどる。

私が一番衝撃を受けた写真です。
http://www.lootone.com/poem/poem05.html

Pere Castor さんのコメント...

貴重な情報ありがっとう。
ジョー・オダネルの写真は娘にも見せました。娘は8月6日生まれなので、広島とは切れない因縁を感じているようです。今年4月に初めて広島まで行って平和記念資料館で、フランス語のイヤホンを借りて数時間も見ていたそうです。次はアウシュビッツに行くと言っています。
以前インディアナ・ジョーンズの最新作に触れて書いたんだけど、あの映画でネバダ砂漠の核実験がとても軽々しく挿入されます。娯楽フィクションとは言え、原爆ってこの程度のものかなあ、と思ってしまう子供たちが出て来るのが恐いです。
フランスにはゲーム感覚で核のボタンを押してしまいそうな大統領がいるのもとても恐いです。