2008年7月22日火曜日

後ろ向きな夏ばかり30年も過ごして



 ローラン・ヴールズィ『ルコレクシオン』
Laurent Voulzy "Recollection"


 2008年7月,コールドプレイ『ビバ・ラ・ビーダ』と共にカルラ・ブルーニの新アルバムの初登場1位を阻んだ(!)ヴールズィの1トラック10部構成の45分アルバムです。新作アルバムと言えるのかどうか。77年発表のミリオンヒット長尺11分シングル「ロッコレクシオンRockollection」の31年後,その拡大解釈(はっきり言えば水増し)版の再録音(約30分)をメインに,それ風な青春ノスタルジーの新歌詞をアラン・スーションが書き,リッケンバッカーのやたらと耳障りの良いエアリアルなギターを中心にした必殺のソフトロックサウンドで,どんどん延長させていく,というしろものです。上品で年齢層高めの地中海クラブカラオケショーの趣きもあります。特に第6部「Rockollection Scène 10」では,ヴールズィでない(無名)リードヴォーカルが複数で歌うものがあるので,なおさらです。
 「ロコモーション」,「ア・ハード・デイズ・ナイト」,「サティスファクション」など77年版で引用していた曲はすべて保存されているわけではなく,「ミスター・タンブリンマン」と「メロウ・イエロウ」(ディランとドノヴァンの曲ですね)が消えました。新たに「黒くぬれ」,「抱きしめたい」,「涙の乗車券」,「サニー・アフターヌーン」,「グッド・バイブレーションズ」などのシクスティーズものだけでなく,セヴンティーズ,エイティーズまで,種々雑多にメドレー化していて,挿入曲の合計は40を越しています。
 こんなもん,最初から最後まで聞いたら脳が溶けてしまいますね。そうなりたい中高年にはこたえられない1枚かもしれません。77年に振り返った自分の十代というのがシクスティーズである世代は,ほとんどがベビーブーマーズです。日本では団塊と言うのでしょうか。初めて買ったシングル盤,初めて持ったギター,初めてのダンスパーティー,初めての外泊...。それをヴールズィは77年に「あの時はバックにこういう曲が流れていた」というヒット曲をメドレーでつなぎ合わせて,青春グラフィティーを回顧してしまったのです。その29年後,2006年,懐古趣味アーチストはその本領をもう一度発揮して『第7の波 Septieme vague』という,(夏が来れば思い出す)スローバラード・ヒット曲のカヴァーアルバムを発表して,大ヒットさせました。
 甘く酸っぱいノスタルジーは,特に「夏場」の主力商品であり,毎夏同じようなナツメロ特集を主要テレビ局/大手一般ラジオ局がオンエアし,ヴァカンス中の中高年たちは,あの時きみは若かった,を思い,目をうるうるさせたりします。
 確信犯ヴールズィはノスタルジー領土を果てしなく拡張していく,という技において,多くの中高年の美しい老後設計の強い味方として登場します。アンドレ・リウの大オーケストラと双璧でしょう。このアルバムでまともな新曲として1曲だけ提出されている第2部「ジェリー・ビーン」は,スーション詞でありながら,ヴールズィの幼少期から少年期までを自伝的に,しかも100%肯定的に,青春すべてが美しい,あんた一体どこの惑星で生きていたんだ,というあきれた曲で,私,ほんとスーションを買いかぶっていたのか,と自問してしまいました。
 時は過ぎ行く。オール・シングス・マスト・パス。いつでも過去に帰っていきたいなら,その曲のオリジナル盤を聞くというのが正しいでしょう。なぜ,フランスの中高年たちはヴールズィでそれを疑似体験しようとするのでしょう? それは過去に何重にもフィルターをかけて,甘美の度合いを果てしなく増量したヴァージョンであるからでしょう。この過去はとんでもないフィクションなのですが,それがいいというムキにはしかたないじゃないですか。
 挿入曲中,唯一のフランス語曲は「きみとの愛がすべて L'amour avec toi」(ポルナレフ作)です。考えてもしかたないことを考えてしまいます。
 ついでに言うと,77年版と一体何が一番違うか,というと,英語の発音です。77年版はモロにフランス人英語の発音だったのに,30年もこれやってるうちに,英語が(日本人英語みたいな)ネイティヴ・イングリッシュに近くなってます。これも気持ち悪いものです。
 なおアルバムタイトルは『ルコレクシオン Recollection』(再び集めること)であって,『レコレクシオン Récollection』(【宗】〈黙想中の〉精神集中,潜心,瞑想)ではないと思います。決して精神集中して聞いてはいけません。


<<< トラックリスト >>>
Acte I. Dans le vent qui va
Acte II. Jelly Bean
Acte III. Radio Collection
Acte IV. Rockollection 008
Acte V. A7708
Acte VI. Rockollection Scène 10
Acte VII. Les Interrogations d'Elizabeth
Acte VIII. Jukebox
Acte IX. Sous La Lune
Acte X. Epilogue : Dans le vent

LAURENT VOULZY "RECOLLECTION"
CD RCA/SONY-BMG 88697318952
フランスでのリリース:2008年7月2日



PS 1
あっちゃっちゃ...。見なくてもいいですよ。Youtubeに7月14日(革命記念日)シャン・ド・マルスでのコンサート(口パクではないですけど,プレイバック使用ですね)のヴールズィ「ルコレクシオン」が載ってました。Laurent Voulzy "Recollection"
Pathétique !

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