2007年12月13日木曜日

クリムゾンとクローバー


トミー・ジェームスとザ・ションデルズ
『アンソロジー 1966/1970』
Tommy James And The Shondells "Anthologie 1966/1970"


 しょんでるず,しょんでるず,七つの海が,早く来いよとしょんでるず
                         (三田明『若い港』1964年)
 
トミー・ジェームスというのは目立たない名前でしょうね。どこにでもありそうです。若い人たちには玩具のトミーが出している「きかんしゃトーマス」のジェームスとしか思いつかないかもしれまっせん。
 1966年のことです。My baby does the hanky panky, my baby does the hanky panky, my baby does the hanky panky, my baby does the hanky panky...。英語を知らなくても誰でも覚えられる必殺リピート歌詞の「ハンキー・パンキー」が全米1位になります。これがデビューシングルだそうです。日本では明石家さんまがテレビ番組のテーマで使っているということで知られているようです。

 バンド名のShondellsは「トミー・ジェームスと小便小僧たち」という意味ではありまっせん。トミー少年のあこがれのギタリスト/歌手だったトロイ・ションデルにあやかってのものです。ギタリストの分際で"トロイ"という名前なのは,エリック・クラプトン異名スロー・ハンドと関連があるのか,などと考えてはいけません。トロイ・ションデルは61年に「ジス・タイムThis time」という一発ヒットを放っていて,この歌は漣健児の日本語詞がついて『涙のさようなら』(いったいどうやったら,こういう必殺の日本語タイトルが考えつくのでしょうか!)というタイトルで飯田久彦(愛称チャコ。現エイベックス・エンタテインメント取締役)が歌っていました。

 フランスのレコード復刻の鬼職人,マルシアル・マルチネイ(Magic Records/MAM Productions社長)によるトミー・ジェームスとザ・ションデルズの『精選集 1966/1970』であります。6枚のEP(4曲)シングルと11枚のドーナツ盤から厳選した24曲で,「ハンキー・パンキー」(1966)に始まり,「ふたりの世界 I think we're alone now」(67年。この曲は20年後の87年に当時15歳のティファニーちゃんがデビューシングルとして全米NO.1になります),「モニー・モニー」(68年。これも19年後の87年ビリー・アイドルが全米NO.1ヒットにしてしまいます),「クリムゾンとクローバー」(69年)といったシクスティーズ有名曲が並んでいます。
 マルチネイの解説には,「ハンキー・パンキー」が63年に録音されたのに66年までリリースされなかったことや,67年から68年にかけてバンドメンバーの総入れ替えがあったことが書かれています。トミー・ジェームスを除いては前後で顔ぶれが全員変わったということなんですが,それがバンドはヴォーカリストだけで持っているという証拠と勘違いして,バンドなんかなくたってと70年にトミー・ジェームス君はソロアーチストになるんですね。それが斜陽の始まりなんですが。
 モップ・バンドみたいな音から,バブルガムになって,さらに極端なサイケデリックに至って,最後にはソフト・ロックになってしまう4年間のように聞こえました。60年代後半の一通りのことがすべて詰まっているような凝縮度です。

 爺はと言えば,あの当時は中学生ですから,トミー・ジェームスとザ・ションデルズはレコードでは一枚も持っておらず,AMラジオでのみの記憶になります。全米で1位だったら,青森あたりの民放ラジオでも聞くことができた時代です。「ミュージックライフ」にも載ってましたし。日本でも「サイケ」と3文字で一般化されたPsychedelicなLSD幻覚アートが幅を利かせていた頃で,原色たくさんのカラフルな流れ水玉やペイズリー模様を「サイケ調」と言ってました。また音楽はファズ・ギターやワウワウ・ペダルやジェット・マシーンや電気シタールが入ってると「サイケ調」でした。中学生だった爺もかなり幻覚状態というのに興味があって,接着剤系の吸嗅遊びというのも経験がありましたが,どちらかと言えば1本の「新生」とか「ゴールデンバット」で簡単にトリップしてしまえる,お手軽アシッド小僧でした。レコード持ってませんでしたらAMラジオだけが頼りなんですけど,ラジオでこの曲が流れたらトリップ気分という歌が数曲あって,その代表がレモン・パイパーズ「グリーン・タンブリン」,アイアン・バタフライ「ガダダビダ」,トミー・ジェームス&ザ・ションデルズ「クリムゾンとクローバー」であったわけです。
 かくして40年後に「クリムゾンとクローバー」と再会ということなんですが,それまでにもナツメロ系のFM局では何回も聞いているので,格別の懐かしみというのはありませんでした。ところが驚いたのはこれはは5分以上の曲だった,ということで,私はラジオではおそらくこの長いヴァージョンは一度も聞いたことがないと思います。これすごいですね。この浮遊感というのはただのトリップ感覚ではないですね。

 たぶん(←)のオリジナルアルバムにはこのヴァージョンで入っているのかもしれません(絶対入手しなければなりません)。真っ赤な心臓(クリムゾン色でしょうか)と三つ葉のクローバーというシュールな出会いもよろしいですが,ギターが何種類も違う音で介入するのが非常に絵画的です。あの頃,ギターって何でもできたんですねえ。揺れ加減もいいですねえ。天使系のコーラスワークもいいですねえ。4分30秒頃にスクラッチ効果の切れ切れヴォーカルになって徐々にフェイドアウトしていきますが,昇天モードです。

<<< Track list >>>
1. HANKY PANKY
2. SAY I AM
3. LOT'S OF PRETTY GIRLS
4. GOOD LOVIN'
5. IT'S ONLY LOVE
6. YA! YA!
7. I THINK WE'RE ALONE NOW
8. DON'T LET MY LOVE PASS YOU BY
9. MIRAGE
10. I LIKE THE WAY
11. RUN RUN RUN
12. GETTIN' TOGETHER
13. OUT OF THE BLUE
14. LOVE'S CLOSIN' IN ON ME
15. MONY MONY
16. 1.2.3. AND I FEEL
17. SOMEBODY CARES
18. DO SOMETHING TO ME
19. CRIMSON AND CLOVER
20. SWEET CHERRY WINE
21. CRYSTAL BLUE PERSUASION
22. BALL OF FIRE
23. SHE
24. GOTTA GET BACK TO YOU

CD MAM PRODUCTIONS 3930648
フランスでのリリース:2007年11月27日

(↓)「クリムゾンとクローバー」5分32秒ヴァージョン(1969年)


(↓)トミー・ジェームス&ザ・ションデルズ「クリムゾンとクローバー」(1968年)いとも”サイケ”な動画クリップ3分25秒


(↓)1982年ジョーン・ジェット&ザ・ブラックハーツによるカバー「クリムゾンとクローバー」。なんともキマリますなぁ、う〜ん。


(↓)2009年プリンスによるカバー「クリムゾン&クローバー」。別格の輝き。トロッグス「ワイルド・シングス」を間に挟む殿下のお遊び。

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