2007年10月10日水曜日

「天国の楽士」とコクトーは讃えた



 フランク・プゥルセル『フランク・プゥルセル・オリジナルズ VOL.1』
 Franck Pourcel "ORIGINALS FRANCK POURCEL VOLUME ONE"


 昨夜はサン・ジェルマン・デ・プレの寿司屋「築地」で,久しぶりにおいしいおさかな,おいしいお寿司,おいしい冷酒でした。さすがはサン・ジェルマン・デ・プレの本格寿司でありますな。お相手は名刺に「ムードミュージック・コーディネイター」と銘打ってある坂井さんでした。坂井さんとは氏がかつて目黒のレコード会社に勤めていた頃からの付き合いで,独身の身軽さをいいことに年に1〜2度,ヨーロッパ各地を回って趣味の楽団音楽のレコードを買って回るという,ムード音楽コレクターではおそらく日本でトップクラスにある方だと思います。氏がフランスで買い付けたレコードを私の会社が預かって再梱包して,日通ペリカン便で発送してやる,というのが私の友情の証しでして,それに対してパリの日本料理屋で好きなだけ飲み食いをおごってやる,というのが氏の友情の証しです。美しい関係です。
 フランク・プゥルセル(1913-2000)は生前に2000曲を越える録音をしておりますが,エキスパート坂井さんはそのオリジナル盤,編集盤,フランス盤/米盤/独盤/日本盤/その他外国盤のすべてを蒐集しつつあるプゥルセルの大ファンであります。しかし全米ヒットとなる『オンリー・ユー』(プラターズのカヴァー)の1959年前の録音というのは,なかなかお目にかかることができないものだそうで,CD化もほとんどされていないようです。
 その坂井さんに「こういうCDが出るんだぞぉぉ!」とお見せしたのがこれ。とたんにおさかなもお酒も急においしくなったのでした。「これはすごいっ!」というわけです。日本で涙を流す人たちはたくさんいる,というものらしいです。
 戦前はヴァイオリニストとしてイヴ・モンタンやリュシエンヌ・ボワイエの伴奏者であったプゥルセルは,自分のフルオーケストラを持つことが夢でしたが,その夢は1950年に実現するものの,フランスのレコード会社がどこも契約してくれず,52年にプゥルセルは40人の楽団員を連れてアメリカに移住します。そこで"フレンチ・フィドラー"とそのオーケストラは徐々に名が知られるようになり,その名を聞きつけた初レコーディングの申し出は皮肉にもフランスのプロデューサーからやってきます。アメリカの楽団と思ってパリに呼び寄せたら,フランス人だったという笑い話ですが,フランク・プゥルセルと彼の楽団は1952年秋,仏レコード会社デュクレテ・トムソンに記念すべき第一回録音を果たします。それが「ライムライト」(チャップリン作)と「ブルータンゴ」(リロイ・アンダーソン作)でした。
 このCDは,この「ライムライト」に始まるフランク・プゥルセル・グランド・オーケストラの最初期の録音を1956年の「秋のコンチェルト」まで年代順に25曲収録しています。監修はフランク・プゥルセルの娘フランソワーズ・プゥルセルが行っていて,正規権利継承者のスーパーヴァイズによってやっと実現したオフィシャルなオリジナル録音リマスター復刻盤というわけで,これが「ヴォリューム・1」となっているからには「2」も「3」も出て行くということなのでしょう。
 ムード楽団指揮者ではポール・モーリア(プゥルセルと同じマルセイユ人)とレイモン・ルフェーブルがピアニストであるのに,プゥルセルはヴァイオリニストですから,その弦楽芸がとりわけものを言うわけです。それは過去においてフレンチタッチ系のDJ諸氏によってサンプルしまくられたのですが,娘フランソワーズはそのことをむしろ誇りに思っていて,今日にもなお若い人たちを刺激できるストリングスアートとなっていることを喜んでいるようです。私もそういう毒にちょっと感染したのか,このCDを聞きながら,この部分のストリングスをいただいて切り貼りしてこういう使い方をしたら....なんていうことを考えてしまった箇所がいくつかありました。いけないリスナーですね。
 「ムーラン・ルージュの歌」,「私の心はバイオリン」,「ポルトガル洗濯女の歌」(アンドレ・ポップ作),「モンマルトルの哀歌」,「枯葉」,「アンチェインド・メロディー」,「ストレンジャー・イン・パラダイス」.... それはみんな耳に親しいメロディーでも,ストリングスの甘美もあり哀愁もありの浮遊感は元祖・名人の巧によるものです。以前の本の中でエリック・セラの映画音楽「グラン・ブルー」に触れて,眠くなるのも音楽効果のひとつである,みたいなことを書きましたが,このストリングスも睡くなってしまうセラピー効果はあると思います。天国的なるものは薄目でしか見えないものでしょうに。
 「オンリー・ユー」で世界的に有名になるのは1959年のこと,かの「ミスター・ロンリー」(日本のFM番組『ジェット・ストリーム』テーマ)は1964年の録音でまだまだ先のことです。このザ・フレンチ・フィドラーのアートが,この「オリジナルズ」コレクションで愛好者の諸姉諸兄を涙させ,門外漢諸氏をうたた寝させ,若いDJ君たちにネタをたくさん提供し.... それぞれの道で愛されることになりましょう。

<<< Track list >>>
1. LIMELIGHT (CHAPLIN) 1952
2. BLUE TANGO (ANDERSON) 1952
3. MOULIN ROUGE (AURIC-LARUE) 1953
4. WONDERFUL COPENHAGEN (LOESSER) 1953
5. GRISBI BLUES (WIENER) 1953
6. MON COEUR EST UN VILON (LAPARCERIE-RICHEPIN) 1953
7. EN AVRIL A PARIS (TRENET) 1954
8. MEA CULPA (GIRAUD) 1954
9. COIN DE RUE (TRENET) 1954
10. UN JOUR TU VERRAS (VAN PARYS) 1954
11. C’EST MAGNIFIQUE (PORTER) 1955
12. AVEC CE SOLEIL (PH GERARD) 1955
13. THE PORTUGUESE WASHERWOMAN(POP) 1955
14. COMPLAINTE DE LA BUTTE (VAN PARYS) 1955
15. LE MAMBO DE MON REVE (CONDE) 1955
16. SOUS LES PONTS DE PARIS (SCOTTO) 1956
17. LA VIE EN ROSE (PIAF – LOUIGUY) 1956
18. LES FEUILLES MORTES (PREVERT – COSMA) 1956
19. MADEMOISELLE DE PARIS (CONTET-VAUDRICOURT) 1956
20. SOUS LES TOITS DE PARIS (MORETTI-NAZALLES) 1956
21. UNCHAINED MELODY (NORTH – HY) 1956
22. MERNANDO’S HIDEAWAY (ADLER-ROSS) 1956
23. STRANGER IN PARADISE (WRIGHT – FORREST) 1956
24 ARRIVEDERCI ROMA (PASCAL – GARIEI – GIOVANNINI) 1956
25. AUTUMN CONCERTO (BARGONI) 1956

CD EPM 986232
フランスでのリリース:10月15日

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