2007年9月14日金曜日

ワイルドで行き過ぎよう




 レ・ブルーゾン・ノワール 『1961-1962』
 LES BLOUSONS NOIRS "1961-1962"

 ロックンロールはその初めの頃に,どこの国でも「こんなものは音楽じゃない」と言われましたよね。良識の人たちや,旧世代のモラルを持った人たちから「こんなものは音楽じゃない」と言われるのがロックンロールでしたよね。暴走するビート,プリミティヴでワイルドなシャウト・ヴォーカル,踊れりゃそれでいいのさでかき鳴らすギターコード,ごつごつとした岩が転がるような不規則さ,それがロックンロールでした。
 南西フランスの港町ボルドーに実在したロックンロール・バンド,レ・ブルーゾン・ノワールにはそのすべての条件が揃っていたのですが,このバンドはなによりもまず「こんなものは音楽じゃない」なのでした。恐れを知らない超ヘタ・バンドなのでした。このCDのライナーでは「こいつらはその日の午前中に楽器を買って,午後にこの録音をしたのではないか」とまで書かれています。リズム感覚ゼロのまま連打炸裂するドラムス,二つだけのコードをでたらめにストロークするギター,それらにおかまいなく陶酔的に歌いシャウトするヴォーカル,馬の耳にロックンロール,よくもまあこういうレコードが世の中に存在したものです。
 レ・ブルーゾン・ノワールは実在したにも関わらず,今や全く資料もなく,おそらくメンバーはクロード(リードギター),ジョー(リズムギター),ディド(ドラムス),サミー(ヴォーカル)の4人であったろう,とライナーに記されています。ボルドーの地元レコードレーベル GUILAIN(ギラン)に2枚の4曲EPシングルを残しているのみです。1961年に「スペシャル・ロック」と題された最初の4曲入りEPは,当時のフランスのロックンロールを代表していたレ・ショーセット・ノワール(エディー・ミッチェル)1曲,レ・シャ・ソヴァージュ(ディック・リヴァース)1曲,ジョニー・アリデイ2曲のカヴァーです。カヴァーというよりは意図的破壊行為ですね。ギッタギッタにデストロイしています。
 その1年後1962年に「スペシャル・ツイスト」と題された2枚目にして最後の4曲EPを発表するのですが,この2枚の間の1年間という時間にも関わらず,このバンドは全然進歩がないのです! 練習なんかクソ喰らえ,というロックンロールな心意気でしょうか。
 ↑2枚めの写真をご覧ください。その2枚のEPシングルのジャケ写が載っていますが,まったく同じ写真をバック赤からバック青に変えただけです。予算の問題というのではなく,「写真なんてメンドクセーっつうの!」というふてぶてしさの方が強く感じられませんか?

 英語で言うならば,これはあらゆる意味において BAD です。悪く,ヘタで,ふてぶてしく,常軌を逸して... その上ある種カッコいいわけですね。このケッタイなレコードを復刻してしまったのは,バスチーユのレコードショップ BORN BADで,その主人のジャン=バチスト・ギヨーはかつてフレンチ・サイケ・ポップの復刻コンピレーション「ウィズ Wizzz」や,フレンチB級シンセ・ポップのコンピレーション「ビップ Bippp」の仕事で知られる人です。ギヨーはこのレ・ブルーゾン・ノワールに超早すぎたパンクの原石を見てしまうわけです。お笑いで聞くもよし,ここにロックンロールありきと驚愕するもよし。しかし,多くの人たちにとってこの8曲は「こんなものは音楽じゃない」でとどまってしまうかもしれません。

<<< Track List >>>
1. Be bop alula
2. Eddie sois bon
3. Depuis que ma mome
4. Hey Pony
5. Twist again
6. Cherie oh cherie
7. Twist a St Tropez
8. Les fous du twist

CD BORN BAD RECORDS BB006 / LP BORN BAD RECORDS LPBB006
フランスでのリリース ; 2007年10月

( http://www.myspace/bornbadrecords に詳細あり)
 

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